京セラが新事業開拓を加速している。テーマは社会課題の解決。グループが有する多様な技術や人材などの経営リソースを結集し、布地用のデジタル捺染(なっせん)機や、工場の人手不足を補う協働ロボットシステムといった新技術を相次ぎ開発し事業化する。電子部品メーカーとして国内大手の一角を占めながら、競合他社とは一線を画した独自の多角化戦略も推し進める。社会課題解決事業で多角化を進化させ、高い成長を狙う。(京都・小野太雅)
【注目】“部品外” でも成長、安定性保つ
セラミックス部品や電子部品、スマートフォン、複合機・コピー機、機械工具、太陽電池、蓄電池、包丁はたまた宝石まで―。これら全て、京セラが手がける製品だ。
1959年、ブラウン管テレビ向け絶縁部品「U字ケルシマ」の開発製造から始まった同社の歴史は、創業者の故稲盛和夫氏が指揮する多角化戦略によって大きく広がった。
日本を代表する電子部品メーカーである同社だが、売上高を分野ごとに区分すると半分以上が、部品以外の製品で構成するソリューションセグメントが占める。23年3月期の売上高2兆253億円のうち、ソリューションセグメントの売上高は1兆685億円で全体の52・8%に上る。
同社では26年3月期までに売上高2兆5000億円を目標に掲げるが、ソリューション事業はその達成のために「非常に重要な位置付けになっている」と、同セグメントを担当する伊奈憲彦取締役は話す。
もちろん多角化戦略には経営資源を分散するというデメリットもある。経営のかじ取りも複雑になるため、一般的には否定的な意見も少なくない。同じ電子部品メーカーとして対照的なのが、同じく京都に本社を置く村田製作所だ。
スマホ市場が急速に立ち上がった2010年代。積層セラミックコンデンサー(MLCC)で世界首位の村田製作所は、スマホ向け部品などに集中する戦略をとり、同市場の拡大に伴い大きく成長した。一方、京セラは同市場の成長の恩恵を受けつつも、他分野で苦戦し、成長スピードを鈍化させたことがある。
「村田製作所の戦略は素晴らしい。『京セラも同様の戦略に切り替えないのか』という株主からの指摘があった」と京セラの谷本秀夫社長は明かす。一方「リーマン・ショック後、京セラが赤字にならなかったのは、部品事業はボロボロだったが、太陽電池事業が絶好調だったから。どこかの事業が悪くても、どこかの事業が利益を出すというのは経営として安定する」(谷本社長)と揺るぎない。
注目は安定性という強みを維持しながら、いかに成長力を高めるか。同社はソリューションをキーワードに多角化を進化させる取り組みを加速する。
【展開】デジタル捺染・レーザー関連 “目玉”
京セラが多角化のギアを一段上げようと取り組むのが「ビジネスインテグレーション活動」だ。各製品分野の代表者をはじめ、研究開発本部長の仲川彰一執行役員、経営推進本部長の浜野太洋執行役員らが参画。グループの多様な技術をどう生かすか、事業化の案、外部との協業の可能性などについて定期的に議論し、新ビジネスの可能性を探索する。
大企業の宿命といえるが、同社でも「事業部間の連携がとりづらくなっていた」(谷本社長)。こうした危機感のもと、谷本社長はグループ間連携の推進を掲げ、同活動はその具体策として始まった。
谷本社長の「連携マインド」は全社に波及しつつある。以前であれば新事業開発に当たり、関連部門が人材の派遣を渋るケースもあった。それが「社長が(連携という)価値観を強く打ち出したことで、従業員が変わってきている」(浜野執行役員)という。最近ではエース級の人員が送り出されるなど、シナジーが出しやすい環境になったという。
新事業創出で同社がフォーカスするのは「社会課題の解決」だ。伊奈取締役は「社会課題解決事業はお客さまのためになるし、我々にとってもやりがいがある。また、持続的に成長し収益が上がりやすい」と説明する。新事業創出では社会課題の解決という方向性と合致する重点分野として「情報通信」「自動車関連」「環境・エネルギー」「医療・ヘルスケア」を掲げる。これら4分野は既存事業との親和性も高い。
新事業の目玉の一つが、衣料品の布地をインクジェットプリンター技術で染めるデジタル捺染システム「フォレアス」だ。一般的に布地の染色には大量の水を消費するため、環境負荷低減が課題だった。フォレアスはグループで有する技術を融合し、水の使用量をほぼゼロに抑えた。浜野執行役員は「展示会でも大きな反響があった」と手応えをつかむ。
窒化ガリウム(GaN)技術などを使ったレーザー関連製品も注目される。21年に買収した米スタートアップのソラー・レーザー・ダイオード(現京セラSLDレーザー)の技術で、従来の発光ダイオード(LED)より高出力の照明を開発できる。既に自動車ヘッドライト向けなどで事業化した。レーザーを使った通信技術などへの応用も目指す。
京セラは新事業それぞれを中長期で1000億円規模に育てる目標を掲げている。浜野執行役員は「26年3月期までに新事業で2000億円規模を達成したい」と意気込む。
【論点】社長・谷本秀夫氏「グループ間連携、新事業創出」
―29年3月期までの売上高3兆円達成を掲げています。ソリューション事業の位置付けは。
「現在の複合機や携帯電話などのソリューション事業は売上高規模が大きい一方、成長率という観点で見れば、他の部品事業などと比べてやや低い。少し発想を変え、新しいモノを生み出す必要がある。それが布地用デジタル捺染機や協働ロボットシステム、太陽電池と蓄電池を組み合わせて再生可能エネルギー電力を販売するサービスなどの新事業だ」
―新事業創出に向け、事業部・グループ企業間の連携を強化しています。
「明らかに交流が活発になってきた。以前は事業部・グループ企業ごとに壁があり、多角化して多様な技術がある一方、それらを生かしきれていなかった。デジタル捺染機は、当社のインクジェットヘッド部門と子会社で複合機を手がける京セラドキュメントソリューションズ(KDC)が共同開発した製品だ。グループ間で連携し、新しいソリューションを作る流れができ始めている」
―ソリューション事業の今後の戦略は。
「同事業は部門ごとの拠点が地理的に分散しており、交流しにくいのが課題。そこでエンジニアや営業のリソースを効率よく運営できる体制を構築する。例えば、広島が拠点の電動工具を手がける京セラインダストリアルツールズと、大阪が拠点のKDCはメカ設計という点で共通している。設計エンジニアはKDCの方が比較的多いことを踏まえ、大阪のKDCの既存拠点に両社が開発などで交流できる場所を整備するといった案がある」
―AI(人工知能)技術やテレワークの普及などで事業環境も変わりつつあります。
「多くの部門で仕事の仕方はガラッと変わる。例えば間接部門の人員は本社と各工場の双方に一定数在籍する。今、工場に10人いるとしたら、5人は現地で残りは本社からリモート勤務するといった構想がある。共働きが一般化し、人材を日本各地に配属するのは難しくなってきており、業務のリモート化は当然の流れだ。グループ間の連携強化もそういったことを踏まえ戦略を練る。会社の仕組みやルールを変え、ある程度の形になるのは5年後くらいだろう」
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