残されたエンジン車の市場を総取りしようともくろむ部品メーカーが現れた。残存者利益をかき集め、未来を託すM&A(合併・買収)や技術開発に回す。短期志向の逆張り戦略では決してない。電気自動車(EV)時代に勝ち残ることを見据えた、そのしたたかな戦略に迫る。
10月2日、ピストンリングと呼ばれるエンジン部品で国内シェア2位のリケンと3位の日本ピストンリング(NPR)が経営統合し、共同持ち株会社リケンNPRが発足した。リケンはホンダ、NPRはトヨタ自動車を主要顧客としてきた。ライバル同士の異例の再編劇は、自動車部品業界が転換期の真っただ中にあることを象徴する。
従来の自動車の心臓部であるエンジンは大小様々な部品で構成され、これらを供給する部品メーカーの数も多い。右下のリング状の部品がリケンNPRなどが手掛けるピストンリングだ(写真=PIXTA)
新会社の市場シェアは自動車向けで国内6割弱、グローバルでも3割に達する。この高いシェアゆえに公正取引委員会による審査は難航したが、最終的にはゴーサインが出た。「単純にシェアの問題で統合を止めたりするようなことはしない。(自動車向けのピストンリングが)縮小産業であることも理解している」。事情に詳しい公取関係者はこう話す。
縮むエンジンに依存する両社の統合を「負け組連合」と見る向きもあるかもしれない。だが、当事者たちの士気は高い。「我々には世界トップクラスの技術力がある」。リケンNPRの会長兼最高経営責任者(CEO)に就任した前川泰則は強調する。その力を結集し、世界シェアの拡大に動く。「まだ存分に暴れられる」。前川の意気は軒高だ。
ライバルは独マーレや米テネコといった世界的な大手部品メーカー。マーレの連結売上高は124億ユーロ(約1兆9500億円、2022年12月期)、テネコは22年11月に非公開化されたため直近の業績は明らかではないが、21年12月期の売上高は180億ドル(約2兆6900億円)だった。
対するリケンNPRの売上高は1320億円(24年3月期予想)。規模では足元にも及ばないようにも見えるが、「ピストンリングだけで見れば、新会社の事業規模はマーレ、テネコに匹敵する。十分に勝負できる」。前川はひるまない。
リケンの前川泰則社長が共同持ち株会社リケンNPRの会長兼CEOに就任した(写真=陶山勉)
リケンNPRはエンジンの性能を改善する秘策をまだ手の内に複数隠し持っているという。これを武器にライバルから取引先の新しいエンジン車の開発案件を奪い取り、その稼ぎを電動化に対応した新製品の開発や、将来を託す新しい事業領域でのM&Aなどに投じていく作戦だ。
これまでリケンとNPRはいずれも手堅い経営を続けていたため、有望な投資案件があっても手を出さずにきた。「今後は果敢に買収に動く。今回の統合を実現させたことで証券会社や投資会社が我々を見る目も変わった。いい案件が持ち込まれている」と前川は言う。
企業再編の波は系列の垣根だけでなく国境も越えている。
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