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Wednesday, March 6, 2024

設計段階で樹脂部品の変形対策 自動車の開発期間短縮に大きく貢献 - 日経BP

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 自動車の開発において、燃費や運動性能の向上をもたらす車体の軽量化は正義である。軽量化の重要性は、大重量部品であるバッテリーの搭載が不可欠になる電動化が進むことで一層高まっている。これまで金属部品を適用してきた部分を、樹脂部品に替える動きが加速している。

 ところが、その樹脂は成形後の形状・寸法に誤差が出やすいのが、悩みのタネだった。

設計部門で対策すべき
成形精度課題は意外と多い

 成形後の樹脂部品が変形する要因は、大きく2つある。1つは設計した部品自体の形状によるもの。もう1つは成形時の条件によるものである。前者は設計部門が、後者は生産技術部門が対策すべき要因だ。「一度設計部門から出図された後に、成形要件を最適化するだけでは品質やコストなどの生産技術要件を満たせず、設計部門に差し戻して対策し直すケースが頻出しているようです」と東レエンジニアリングDソリューションズ(TRENGD)の竹下陽一氏は指摘する。

竹下 陽一氏

東レエンジニアリングDソリューションズ株式会社
営業本部 CAE営業部長
竹下 陽一氏

 これまで、成形後の変形は基本的には実際に成形してみないと分からなかった。20年ほど前からは、樹脂流動解析を行うことで、試作回数を減らしても生産技術部門で成形要件をある程度最適化できるようになった。それでも、設計部門に戻して形状を再検討してもらわないと想定精度を満たせない場合も多く、開発期間の長期化を招いていた。

 TRENGDが2020年に提供を開始した「PD Advisor」は、設計した部品形状に起因する成形後の変形を予測するソフトウエアである。「形状起因の変形の発生を設計段階で予測し、出図前に変形対策を終えておくことで、成形精度の高い部品を短期間で効率的に生産できるようにします」(竹下氏)

 部品の形状によって成形後に起こる変形の傾向は、成形工程を熟知する経験豊富な生産技術担当者ならば分かる。しかし、設計者の主な役割は強度や剛性、軽量化などの設計要件を満たすための形状を考えることであり、成形に関する知見に乏しいのが普通だ。形状が複雑で、要求される精度が高まれば、対策はますます難しくなってくる。PD Advisorは、成形工程に関する知識に乏しい設計者でも、解析結果を基に修正すべきポイントを抽出し、早期対策ができる。

設計データを基にして、
問題部分を抽出・対策指南

 2021年に投入した「PD Advisor 2.0」では、形状由来の変形への影響が大きな部分(反り感度の高い部分)を明示する機能を搭載。2022年に販売開始した現行版「PD Advisor 3.0」では、反り感度を踏まえて変形対策すべき部分を自動修正する機能を実現した。それまで設計者の属人的経験やノウハウに頼っていた変形対策を、PD Advisorが部品の板厚を変更することで自動化。これによって、出図した図面の手戻りを防ぎ、開発期間(リードタイム)を劇的に短縮する。

 PD Advisor 3.0では、3D CADで設計したモデルを読み込み、適用材料を選択し、必要に応じて評価点・拘束点を設定するだけで、ワンクリックで成形後の変形解析と変形対策を終えられる。その際入力するモデルは、主要な3D CADで作成したものならば、問題なく読み込むことができる。

 また、利用時に複雑な成形条件や解析条件を指定する必要がないため、成形や解析の知識がない設計者でも、手間なく気軽に利用可能である。解析に必要なメッシュのサイズが自動設定され、ゲートやランナーの作成も不要であり、設計者の負担はほとんどない。対象部品の形状、大きさにも制限がない。材料も、ベースレジンが明確になっていれば、いかなる材料にも適用可能だ。

 PD Advisorは、既に自動車業界において広く活用されている。センターコンソール、パネル、グローブボックス、ドアトリムなどの内装、バンパーやグリルなど外装品などの開発に適用されている。「ユーザーからは、『形状起因の変形に限定した解析ではあるが、実際の成形結果に近い変形量の予測ができている』という評価もいただいております」と竹下氏は言う。

図 PD Advisor 3.0による形状起因の変形対策例

図中オレンジ色の部分が、形状起因の成形後の変形が大きな部分。PD Advisor 3.0では、修正すべき部分を抽出するだけでなく、ワンクリックで変形が抑制される板厚変更まで自動実行できる。

[クリックすると拡大表示されます]

樹脂サプライヤーの視点から
実践効果の高いツールを開発

 高精度に樹脂を成形するためのノウハウや設計手法は、教科書としてまとめられているわけではない。東レでは、1980年代以降、材料の販売ツールとして、「3D TIMON(スリーディー タイモン)」という量産時の成形条件に起因する形状変化を予測する樹脂流動解析ソフトウエアを開発した。それ以来ずっと、樹脂成形に関する豊富な解析事例を蓄積してきた。そうした知見の蓄積があるからこそ、PD Advisorのような実践効果の高いツールが生み出せたと言える。

 PD Advisorと3D TIMONを組み合わせて活用すれば、より高精度な樹脂部品の早期量産を、設計と生産の両面からより効率的に支援することが可能だ。

 さらにTRENGDは、次世代版である「PD Advisor 4.0」の投入を予定している。次世代版では、形状起因の変形の対策として、部品の板厚変更だけでなく、反りを抑制する新たな提案機能を追加する見込みだ。これによって、より効果的な変形対策を適用できるようになる。さらに、これまで以上に“攻めた”設計を行えるようになる可能性もある。

 PD Advisorは、自動車用部品以外にも家電製品や住宅設備など、あらゆる機器・設備を構成する樹脂部品の開発に利用できる。高精度な成形が困難なことから、効率的な開発が難しい課題を抱えている点は他業界も同じだ。むしろ、自動車業界よりも開発期間が短いため、設計部門と生産技術部門の間での手戻りによる長期化の問題はより大きい。PD Advisorの活躍の場は、ますます広がっていきそうだ。

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