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Tuesday, March 7, 2023

日本から世界に挑戦するデジタル機械部品調達サービス「meviy(メビー)」の“現在”と“未来” - @IT

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ものづくりのボトルネックだった「調達」プロセスの92%を削減

 製造業が工場の現場で使う機械部品、工具などの製造販売を手掛けるミスミグループ本社(以下、ミスミ)。同社が2016年に開始した部品調達サービス「meviy(メビー)」が急成長を続けている。

ALT ミスミグループ本社
常務執行役員 ID企業体社長
吉田光伸氏

 メビーは、工場で製品製造に用いる生産設備などで用いる板金や切削部品の調達を効率化するサービスだ。メビーの推進をはじめ、同社のデジタルトランスフォーメーション(DX)を主導するミスミ 常務執行役員 ID企業体社長の吉田光伸氏は、メビー誕生の背景を次のように語る。

 「かつての高度経済成長期、日本の製造業は豊富な労働力と長時間労働という潤沢なリソースを土台に成長を続けました。ところが今日は、労働人口の急激な減少に加え、働き方改革による労働時間の削減も求められています。この環境下で生き残るためには、過去の成功体験に基づいた“戦い方”の常識を改めなければいけません」

 ミスミが提供するメビーは、この常識を変えるために生まれたデジタルサービスだ。設計者が設計した部品の3D CADデータを、まとめてメビーのサイトにアップロードすると、独自開発したAI(人工知能)を搭載したシステムが形状を解析し、加工工程を算出。その場で価格と納期を提示する。担当者はその場で発注することができ、部品は最短1日で出荷される。ものづくりのプロセスの中で最も時間がかかるとされる「調達」にかかる時間を大幅に削減する画期的なサービスである。

ALT ミスミが2016年に開始した部品調達サービス「meviy(メビー)」は製造業のDXを強力に支援する(提供:ミスミ)《クリックで拡大》

 ミスミによれば、メビーによって調達プロセスにかかる時間は92%削減できるという。業務を効率化し、設計や商品企画などの創造的で付加価値の高い業務に時間を充ててほしい。ミスミが掲げる「時間創出」を体現するサービスがメビーである。

見積もりの常識や技術者教育にも変革

 調達プロセスの圧倒的な効率化を図るメビーだが、意外な点も評価されているという。

 「これまでは、人間同士のやりとりだったため、手間を考えると1つの部品に対して複数の条件違いの見積もり依頼を出すことはためらわれていました。しかし、メビーであれば、穴の位置など細かい寸法を変更した複数の3Dデータを用意して、まとめてアップロードするだけで、自動で簡単に複数の見積もりを比較することができます。それによって、どのように設計を変えればコストダウンができるかを学ぶこともでき、若手設計者にとっての教育のツールとして活用されています」(吉田氏)

 さらに、メビーには、製造できるかできないかを判断し、できない場合はなぜ作れないのかを分かりやすく説明する機能がある。これが、顧客企業の技術レベルの向上に一役買っているという。

 「例えば、板金部品に穴を開ける位置は、曲げる位置から一定の距離がないと、穴がゆがんでしまいます。その場合は、メビーのシステムが『何ミリ離してください』とアラートを出します。こういった製造性を考慮した設計を学べる機能がお客さまから、経験の浅い設計者の教育に役立つという理由で好評です」(吉田氏)

ALT 加工できないデータを受け取った場合、なぜ加工できないのかを分かりやすく説明するレコメンデーション機能が顧客の技術レベル向上に一役買っている(提供:ミスミ)《クリックで拡大》

顧客の声を聞き、進化するメビー

 実際に、メビーは労働生産性の向上に課題を感じる多くの製造業から支持され、導入が急拡大している。機械部品調達サービス分野で3年連続シェア1位(※「2022年オンライン機械部品調達サービス国内ユーザーシェア」テクノ・システム・リサーチ調べ)を獲得しており、ユーザー数は10万ユーザーを突破。直近1年間で2万ユーザー以上増えている。アップロードされたデータ数も1100万点を超え、導入企業は自動車、機械、電機、電子、教育、化学、医療と幅広い。

 リリース以来、産業界の数々の賞を受けてきたメビーだが、2023年1月には製造業で最も栄誉ある賞の一つである「第9回 ものづくり日本大賞『内閣総理大臣賞』」を受賞した。

 「ミスミが進めるDXによる時間創出の有用性、それがもたらす人手不足の解消といった社会課題への取り組みが評価されたものだと認識しています」(吉田氏)

 メビーは、オープンイノベーションを採り入れ、外部企業との協業を積極的に進めていることも特徴だ。トヨタ自動車とユーザー向けの新機能を共同で開発したり、工作機械大手のヤマザキマザックとの協業では、顧客からの要望が多かった丸物(棒状の機械部品)をメビーに対応させたりした。

 また、メビーが重視しているのは顧客の声(ボイスオブカスタマー:VOC)だ。それによって生まれたのが、顧客に対する納期とコストの柔軟性を提供するサービスである。

 これまでメビーは、「最短翌日出荷」を売りにして、可能な限りの納期短縮を突き詰めてきた。しかし、顧客の声を聞くと、部品によっては必ずしも納期は早くなくてもいいから、その分コストを抑えたいというニーズが存在することも分かった。

 「ちょうど航空券の早割のように、納期に余裕がある依頼については、長納期を選択いただくことで、工作機械の空き時間をうまく活用することができ、コストを抑えた見積もりを提示できるようにしました」(吉田氏)

 時間創出は、単に短納期を追求するだけではない。サプライチェーンの中に埋もれていた細かい空き時間をかき集めて有効活用することで、新たな付加価値を生み出す。メビーのポテンシャルは、新しい調達プロセスの発明にもつながっている。

世界5極体制に向け、IT子会社「DTダイナミクス」を設立

 メビーはグローバル化も強化している。欧州では2021年12月から、米国では2022年10月からサービスを開始している。2023年度中には、中国・アジアでのサービスも開始し、世界5極での態勢が整う。

 「製造業の調達部分に残るアナログプロセスの問題は、世界でも全く同じです。この課題を解決できるメビーに対する期待は大きく、グローバル化の推進で応えていきたいと考えています」(吉田氏)

ALT 世界の製造業の調達部分に残るアナログプロセスの問題を解決するためにグローバル化も強化中(提供:ミスミ)

 グローバル展開を含め、急拡大するメビーのビジネスに対応するため、同社ではメビーの開発に特化したIT子会社「DTダイナミクス」を2022年9月に設立した。DTの意味は、ミスミが大切にする「顧客時間価値」からきている。

 「『時』という漢字を分解すると『日=Day』と『寺=Temple』となります。また、製造業で最も取り除くべきDown Time(稼働停止時間)をテクノロジーで解消することも意味しており、その頭文字を並べてDTダイナミクスと命名しました。“世界一時間にこだわるIT企業”であり、顧客企業の時間を創出する原動力になりたいという思いを込めています」(吉田氏)。DTダイナミクスの社長には、メビーの開発リーダーを務めたミスミの道廣隆志氏が就任した。

 「これからは、あらゆる産業の企業はIT企業化していくと考えています。つまり、ITの力が競争力の源泉になるということです。一方、製造業は、この競争力の源泉を手の内化していくことが重要になります。これまでITは外部の協力会社に委ねていましたが、それでは開発や変化への対応スピードが極めて遅い。内製して手の内化することで、事業スピードのコントロール権を手に入れることが必要不可欠です」(吉田氏)

「日本発、世界ナンバーワン」への挑戦が始まる

 DTダイナミクスは、採用する人材像もミスミ本体とは違ってくる。そのためミスミ本体とは異なる人事制度を採用しており、ITエンジニアの働き方に合わせた環境を提供している。

 「エンジニアが能力を120%発揮できる環境を用意して、そこでメビーの開発を加速させるのが狙いです」(吉田氏)

 最先端のエンジニアから選ばれる企業にならなければいけないと、吉田氏は覚悟を固めている。「開発エンジニアは、グローバルな人材が集結しています。社長の道廣も米国シリコンバレーで開発をしていたキャリアを持ち、グローバル競争に勝つためには、国籍、場所を問わず同じミッションに向かって開発を進めることが必要だと分かっています」

 すでにメビーのグローバル化は進行している。2022年4月には画面デザインやユーザーインタフェース(UI)を海外の顧客に合わせ全面リニューアルした。こうした開発のスピード感や柔軟性も、グローバル化においては必須であり、DTダイナミクスの発足によってさらに加速するだろう。

 2016年に国内でスタートしたメビーは、さまざまな機能拡張を経て、世界市場を目指す段階まできた。ここからは、一気にスケールさせていくステージに入ったと、吉田氏は意気込む。

 「ITサービスでは、GAFA(Google、Amazon、Facebook、Apple)をはじめとした欧米企業の後じんを拝している日本ですが、B2B(Business to Business)、かつ製造業の分野はまだ勝機はあります。メビーはこの領域で『日本発、グローバルナンバーワン』のサービスを目指しています。すでに国内では名実ともにナンバーワンですが、これからは世界を視野に入れた挑戦が始まります。ぜひ、世界を舞台に活躍できる環境で働きたいと思うエンジニアの方々に仲間になっていただきたいと考えています」(吉田氏)

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