あの名デザイナーも考えていた
実は、シトロエン・オーリより22年も前にイタリアのデザイナー、レオナルド・フィオラヴァンティ氏が、より大胆な方法で外板パーツの簡略化を提案している。2000年のコンセプトカー「トリス」だ。
左右のドアとガラスはオーリに先がけて、同一パーツの使用を提案している。加えて、トリスではなんとテールゲートまで同じもので済ませている。
各ドアにはグリップが左右に付いている。今回執筆にあたってフィオラヴァンティ社に確認したところ、握ったグリップによって、左右どちらからでも開けられる機構だという。家電ブランドのシャープが冷蔵庫に採用している「どっちもドア」を想像すればよい。
また、フロントフードを側面まで回り込ませることにより、左右の前フェンダーも省略している。パネル系ばかりではない。前後灯火類のベゼルも同一のものを使用している。
フィオラヴァンティ氏は、2009年に再度トリスのコンセプトを提案した際、以下のような極めて明快な解説をしている。筆者が当時の欧州自動車界について補足すれば、ルノーのサブブランドでルーマニアを本拠とするダチアが2004年発表の低価格車「ローガン」で成功したことで、新興国製のローコストカーが注目されていた時代である。
「今後、先進国を含め、あらゆる市場で低価格車が重要な役割を担うようになるなか、フィオラヴァンティはトリスプロジェクトを再び提案します。
経済的なクルマのプロジェクトはイタリアンデザインの典型です。フィオラヴァンティはローコストカーに関して、労働力が安い生産地域に目を向けるだけでなく、本質的に経済的な車両設計も新しい判断基準となるよう定義したいと考えています。
本車両の目的は特許を、部品点数が大幅に削減されるであろう未来の自動車に反映させることです。部品群は、もはや位置に応じたパーツナンバーやディフィニションで識別されず、その機能のみで設計されるようになります。
これはベーシックな自動車に対する、新しい考え方でありアプローチです。ドアは「右扉部品No.〇〇」「左扉部品No.〇〇」「後扉部品No.〇〇」、バンパーも「前バンパー」「後ろバンパー」、灯火類は「左前照灯」「左尾灯」ではなくなります。これらは、位置(左右前後)に関係なく、すべて同じ部品になるため、「開口機能」「バンパー機能」「灯火機能」のみで表せるのです。
フレームワークもこの新しいアプローチの影響を受けており、左右同一でトリスらしい外観を実現しています。リアとサイドウィンドウも同じものです。
このデザインにより、開発段階では採算性調査やエンジニアリング、試作を簡素化でき、工場、金型、組み立て、さらに物流まで、生産チェーン全体が恩恵を受けることができます。
トリスの特許取得済み車体ソリューションを、未来の環境に優しいエンジンもしくは従来型エンジンと組み合わせることで、必ずしも外寸を縮小することなく、真のローコストカーが実現可能と考えています」
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