[ロンドン 11日 ロイター Breakingviews] - 暗号資産(仮想通貨)の一種であるステーブルコイン「テラUSD」を立ち上げたド・クウォン氏が、重大なしくじりをした。「ステーブルコインの達人」を自称するクウォン氏は、テラをドルに連動(ペッグ)するように設計したが、テラ相場は11日に暴落して一時0.30ドルを割り込み、仮想通貨の高い理想も地に落ちた。
ステーブルコインは、仮想通貨市場で極めて重要な役割を担っている。トレーダーは、すぐに使うあてのない現金を保管したり、交換所との間でドルを出し入れするのにかかるコストや不便さを回避したりするため、ステーブルコインを利用する。
また、ステーブルコインを貸し出して利息を得ることもできる。ステーブルコインで最も規模が大きいテザーとUSDCの2つは、市場価値が総額約1300億ドルに上る。いずれも資産による完全な裏付けを持ち、裏付けとなる資産の大半は現金と現金類似資産だという。
しかし、テラは仕組みが異なる。クウォン氏は、テラと裁定取引が可能な仮想通貨「ルナ」を使い、テラがドルと連動するように設計した。トレーダーは1ドルの価値を持つルナを1テラと交換することができる。
そのためテラの価値が1ドルを下回ると、トレーダーはテラを1ドル相当のルナと交換し、利益を得ることができるため、テラには価格が持ち直すまで供給量が減る力が働く仕組みになっている。
この方法は、政府の監視下に置かれる銀行預金のような現実世界の金融資産を回避することが可能で、愛好家にとって魅力的だ。仮想通貨の支持者はこの発明をいたく気に入り、テラとルナの合計価値は5月上旬に500億ドル近くに達した。
だが、この仕組みには投資家がルナへの信認を失うというリスクがあり、まさにその通りのことが起きた。ルナは幅広く売り込まれ、1週間で95%下落。流通しているルナの総評価額は足元で約39億ドルと、既に発行された総額約150億枚のテラを裏付けるには到底足りず、テラは急落した。
連動制を守るために設立された基金は、5月上旬にビットコインを中心とする40億ドル相当の予備資金のほとんど使い果たしてしまったようだ。
今回の混乱で仮想通貨プロジェクトに対する幅広い信頼は揺らいだが、USDCやテザーなどテラと競合するステーブルコインが同じ運命をたどることはなさそうだ。
コインゲッコーのデータをBreakingviewsが分析したところ、テザーは2015年の立ち上げ以来、95%の時間帯で0.99ドルから1.01ドルの間で取引されている。
これは、その価値のほとんどが仮想通貨以外の世界で保有される、比較的安定した資産によって裏付けられているためだ。ただし、テザーの準備金の内訳は透明性が高くない。
クウォン氏の信奉者は、安定的な資産を裏付けとする、このようなアプローチを異端視していた。こうした人々の目的は、銀行や証券管理機関といった仲介者から自由な、当局の許可が不要の分散型金融の世界を構築することだった。
テラの11日の急落は、彼らが手に入れられるのは純粋な理念か安定性のいずれかであって、両方一緒は無理だということを思い起こさせた。
●背景となるニュース
*暗号資産(仮想通貨)データ追跡のコインゲッコーによると、通貨価値が1テラ=1ドルとなるように設計されているステーブルコインの「テラUSD」は11日に相場が急落した。
*ステーブルコインは既存のブロックチェーン基盤を間借りして独自に発行されるデジタル通貨で、価値がドルなど法定通貨に連動する。
*ステーブルコインは仮想通貨市場が混乱した際の安全な避難先として人気が高く、トレーダーが資金を移動させたり、他の仮想通貨に投機的な投資を行ったりする際によく利用される。
(筆者は「Reuters Breakingviews」のコラムニストです。本コラムは筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
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