スズキのインド子会社マルチ・スズキが1100億ルピー(約1800億円)を投じて北部ハリヤナ州に新工場を建設する。スズキは3月にもインドでの電気自動車(EV)工場新設を決めており、合計3500億円をインドに投じる。同社は過去10年間で米国と中国から撤退し、海外投資をインドに絞りこんできた。トヨタ自動車との提携も生かして投資の選択と集中を加速させ、世界的なEVシフトに備える。
ハリヤナ州に建設予定の新工場は2025年に稼働し、年産能力は25万台となる。スズキは四輪でハリヤナ州に2工場、グジャラート州に1工場を持ち、年産能力は225万台。今回決めた工場の新設でインドの生産能力を約1割引き上げる。
インドの乗用車市場は新型コロナウイルス感染拡大による外出制限措置や半導体不足などで打撃を受けているが、21年度は前の年度比13%増の306万台に回復した。過去最高を記録した18年度の水準(337万台)には戻っていないが、人口増を背景に中長期的な成長市場と期待されている。
インド政府は30年に国内での新車販売の3割をEVにする目標を掲げている。だが当面はエンジン車などが市場では中心的な役割を担う見通しだ。今回スズキが決めた新工場はエンジン車やハイブリッド車(HV)が主体となるもよう。エンジン車など既存ビジネスでしばらくは稼ぎ続けられるだけの経営基盤を拡大させつつ、同時並行でEV新工場の計画を進める。現在と将来の両面でインドでの成長を取り込んでいくという戦略を描く。
インドはスズキにとって第2の母国ともいえる市場だ。1982年にインドの国営企業マルチ・ウドヨグ(現マルチ・スズキ・インディア)に出資し、翌年から四輪車の生産を開始した。長期間にわたって、インドの乗用車市場でシェア首位の座を維持してきた。
一方で、経営規模で勝る世界の競合他社がひしめく他の海外市場での展開は段階的に縮小してきた。2010年代以降、販売低迷を理由に世界の二大市場である中国と米国から相次いで撤退した。その結果、インド市場への依存度は高まっており、全社の販売台数に占めるインドの割合は10年前の4割から、22年3月期には5割まで上昇した。
だがそのインドでの地位も盤石ではない。近年では韓国の現代自動車(グループの起亜自動車含む)などがインドで人気が高まっている多目的スポーツ車(SUV)などで猛追。スズキの21年度の市場シェアは43%となり、2年連続でスズキが「防衛ライン」とする5割を割り込んだ。
さらに政府の後押しも受けて今後、普及が加速するEVに限ると、今は地場大手のタタ自動車と現代自などが市場をほぼ独占している状態だ。こうしたことへの危機感が、スズキをインドへの集中投資へと駆り立てている。
経営体力が限られる中堅自動車メーカーのスズキにとって、インドに経営資源を集中させていくためには、他分野での投資効率化が不可欠となる。その戦略の軸となるのが相互出資するトヨタとの連携だ。
21年7月にはトヨタを中心とする商用車の技術開発会社コマーシャル・ジャパン・パートナーシップ・テクノロジーズ(CJPT)に参画した。さらに投資負担も重い電動車戦略でも、電池調達やEVの車台開発をトヨタや子会社のダイハツ工業とともに進めていくことを検討する。
また1970年代から前身となるレースに参戦してきた二輪車の最高峰「MotoGP」からも、22年末での撤退を視野に運営団体との協議を始めた。投資分野を選別する動きが足元で活発になっている。
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効率化で得た原資をインドに集中させ、スズキはEV時代にも生き残るだけの経営基盤を確保できるのか。もう一つの主力市場である日本での成長余力が限られるなか、成長するインドで今の地位を死守し続けられるかが、スズキにとっての生命線となる。(白井咲貴、ムンバイ=花田亮輔)
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