3月24日、日本代表はFIFAワールドカップ カタール 2022アジア最終予選でオーストラリア代表とのアウェイゲームに挑む。現在、グループBで2位につける日本は、この試合に勝利すれば自力でのW杯本大会出場が決まる。熱心なサッカーファンはもちろん、日本全体にとっても注目度の高い一戦となるわけだが、この試合が今までとは違い「テレビの地上波中継では見ることができない」ために話題となった。
地上波で見られない代表戦
現在、W杯アジア最終予選の放映権は映像配信サービス『DAZN』が取得している。これまで放送権を取得していたテレビ朝日による、今までのような独占的な権利獲得が難航し、W杯アジア最終予選が一切、放送されないという危機に直面するなか、『DAZN』が獲得に名乗りを上げたのである。
日本代表のホームゲーム5試合に限っては、テレビ朝日と『DAZN』が共存する形で地上波中継が実現しているが、今回のオーストラリア戦はアウェイゲーム。そのため、試合を見るためには『DAZN』のサービスに加入しなければならない。
日本代表の試合はこれまで当たり前のように地上波で視聴できていただけに、この状況に戸惑いを覚えるサッカーファンも少なくないだろう。実際、「代表戦はテレビで放映するべき」、「代表戦の視聴が有料なんて理解できない」、「サッカーファンが減る」といった声も少なくない。一方で「『DAZN』が放映権を取得してくれなかったら代表戦は見られなかった」、「すでに『DAZN』に加入しているから影響はない」という意見もある。
また、3月15日には映像配信サービス『ABEMA』がカタールW杯本大会の放映権を獲得し、全64試合を無料生中継すると発表した。メディアを取り巻く状況は大きく変化し、多様化しているのが実情だ。
日本におけるスポーツの視聴形態はどのように変化してきたのか。それに対してどのように対応していくべきなのか。客観的に整理する必要がある。
視聴の選択肢が動画配信にも広がる
MMD研究所が2021年7月12日から8月5日にかけて実施した「動画視聴に関する利用実態調査」によると、1日のうちテレビ(地上波・BS・CS)を視聴する人の割合は50代で93.2%、60代で94.8%と大半を占めるのに対し、20代は85.6%、10代になると76.9%と、年代が下がるにつれてテレビ視聴者の割合が減っているという。また、動画配信サービスについては「利用したことがある」と回答した人の割合が61.2%となり、そのうち62.3%が「月額料金を支払って利用している」と回答している。
また、株式会社CARTA COMMUNICATIONSが2021年9月10日から9月12日に実施した「国内動画配信サービス視聴動向および広告評価に関する調査」によると、メディア利用率で最も割合が高かったのはインターネットの91.0%で、テレビ87.3%、動画配信サービス81.0%が続く結果となった。
これらの調査から明らかなとおり、動画配信サービスはテレビに匹敵するメディアへと成長を遂げている。『DAZN』や『ABEMA』のようにインターネット回線を通じてコンテンツを配信するサービスを「オーバー・ザ・トップ」(OTT)と呼ぶが、インターネット環境があればパソコンやスマートフォン、タブレットなどさまざまなデバイスで視聴できる利便性もあり、近年、国内で急速に普及している。
視聴方法を選べる時代に
かつてテレビ地上波の“花形”だったプロ野球中継は2000年代初頭から徐々に視聴率が低迷し、今では全国ネットの地上波で中継されるのは開幕戦やオールスターゲーム、日本シリーズなどの限られた試合のみ。プロ野球が見られるのはBSやCSの衛星放送、そしてOTTが中心となっている。
Jリーグも1993年の開幕当初は地上波で多くの試合が中継され、BSやCSでも放送されていたが、徐々に地上波中継の数が減り、2007年にはその前年にJ2全試合を中継した『スカパー!』が優先放映権と映像制作権を獲得。そして2017年、『DAZN』が10年で2100億円という巨額契約を結び、J1、J2、J3の全試合が生配信されるようになった。日本代表の国際親善試合は主に地上波で見ることができるものの、Jリーグが地上波やBSで中継されるのは一部の試合のみとなっている。
NHKで中継されているイメージの強い大相撲は、1996年からストリーミング配信を実施しており、2018年1月場所からは『ABEMA』(当時は『Abema TV』)での無料配信がスタートして現在に至っている。また、女子ゴルフは2021年10月、それまで所在が曖昧だった放映権を日本女子プロゴルフ協会(LPGA)が一括管理することを決定。2022年の国内女子ツアーは地上波やBS、CSで放送される一方、インターネット中継は有料配信のみが行われることになり、『GOLFTV』と『DAZN』が全38大会中36大会を生配信している。なお、『GOLFTV』はアメリカの男子PGAツアーや女子ツアーも視聴することができる。
現在、日本国内の多くのスポーツが、テレビとOTTを併用して中継・配信している。視聴者からすれば、テレビ、特に地上波には誰でも無料で試合を見ることができるという利点があるが、OTTに比べてコンテンツ数は多くない。OTTの場合はインターネット環境があればどこでも観戦することができ、コンテンツによっては「見逃し配信」を利用することもできる。また無料と有料のサービスがあり、見る側にとっては視聴方法の選択肢が広がっていくなかで、それぞれの環境に合わせた視聴が可能となっている。
動画配信サービスの普及がさらに進むと予想されるなか、各メディア関係者はスポーツ視聴の現状についてどのように考えているのだろうか。当連載では次回以降、OTT事業者、そして地上波テレビ局の関係者に話を聞いていく予定だ。
からの記事と詳細 ( 【連載|サッカーと放映権】第1回 スポーツ視聴形態の現状と未来 - SOCCER KING )
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