撮影:伊藤圭
スカートを履かされるたびに泣いた。
下山田志帆(27)が女性らしさに抵抗したのは、わずか1歳の時だ。
「1歳くらいの時に、親にスカートを履かされて、めちゃめちゃ泣きわめいたのを覚えてるんですよ。よく記憶が残ってたねって言われるんですけど、細部まで覚えてて。(1歳の祝いに)鏡餅を体につけて歩くイベントでした。おばあちゃんたちにはかわいいって言われたけど、私はこんなの嫌だって全力で泣いていて。私の記憶はそこから始まっているんです」
「なんでスカート履かなきゃいけないの?」
幼稚園時代の下山田。「かわいい」服やおもちゃは欲しくなく、男の子が与えらえる「カッコいい」ものに憧れたという。
提供:Rebolt
幼稚園の制服もスカートだった。自分に与えられるものに対し、「なぜこれを与えられなきゃいけないのだろうか」と、ずっと違和感を抱き続けた。カッコいいものが着たい。下山田にはスカートがカッコいいものだとはどうしても思えなかった。女の子たちはみんなスカートを履き、カッコいいと下山田が思っていた男の子たちはズボンを履いていた。
男の子たちのようにカッコいいものを身につけたいのに、かわいいと言われるものを与えられる自分。6歳で自分の気持ちを言語化できない下山田は、周囲と自分のニーズのギャップに苦しんだ。
「親はわがままを言ってるくらいの感覚だったと思います。辛かったし、いつも怒ってました。誰とも意思の疎通が取れなくて。来たボールをバットで打っても、打っても当たらない。空振りしまくってヘトヘトになっている—— そんな感じでした」
なんでスカート履かなきゃいけないの?
下山田が問うても、大人たちの答えは「女の子だからだよ」。それは質問の答えになっていなかった。小学高にあがると、休み時間は男子と一緒にやるサッカーに夢中になった。教室の中で本を読んだり、おしゃべりをする女子と遊んだりした記憶はほぼない。
「男子と遊ぶのがなぜ楽しいのかといえば、そこでは自分が女の子らしくする必要がなかったからです。いくら泥んこになってもいい。いわゆる野蛮な言葉とかを発しても誰にも怒られないし、不快な顔もされない。
むしろ、受け入れられる感覚がありました。あ、自分が表現したいものってこれだ、みたいな。今でこそ男子サッカーと女子サッカーの格差みたいなことが注目されますが、皮肉なことに私にとってサッカーは『女性らしさ』から逃げるためだった気がします」
小学生時代の下山田。「女の子らしく」する必要がなく、性別関係なくボールを追いかける時間が何よりも楽しかったという。
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1学年違いの従弟たちが羨ましかった。親戚が集まる正月はお年玉を入れるポチ袋が、従弟たちはミッキーマウス。なのに、自分だけミッキーの恋人ミニーだった。
赤と青なら青が好き。誕生日プレゼントなら当時はやったバトル専用のコマ「ベイブレード」が欲しくてたまらないのに、大人たちから「バトル中にコマが跳ね返るから女の子は危ない」と禁止された。
従弟は祖母からベイブレードをもらえるのに、こっちはシルバニアファミリー。かわいい動物たちとごっこ遊びをするドールハウスに罪はない。だが、下山田にとっては「ちっとも欲しくないもの」だった。
試合中に「女に負けるな」の声も
下山田は中学時代(写真左)も男子中心のチームでプレーを続けたが、理不尽な扱いを受けるシーンも多々あった。
提供:Rebolt
小学3年生でサッカーを始め、中学では男子と同じチームに所属した。サッカーは楽しかったが、一方で、理不尽な扱いも受けた。試合後の握手を、相手チームの選手に拒まれたりした。
「今思うと、最悪だなって思います。ただ、そういうのが多すぎて、いちいち相手にしていられなかった。例えば試合中に『おまえ女だよな?』って言われて、『そうだよ』って言ったら、『おい、なんかこいつ女らしいぞ』と言われて。とにかく気持ちよくサッカーさせてくれよって」
子どもだけではない。相手ベンチに座る大人から「女に負けるな」という声が飛んだこともある。
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からの記事と詳細 ( サッカーは「女性らしさ」から逃げるため。差別に怒ってくれた大人たちに救われた【下山田志帆3】 - BUSINESS INSIDER JAPAN )
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