ワクチン接種が進み、国内で新型コロナウイルス禍の後を見据えた動きも見える中、食品などの物価上昇が消費マインド回復の足枷になりかねない状況となっている。コロナ禍で冷え込んでいた中国や欧米の需要拡大など要因はさまざま。経済活動の急な活発化による世界的な物流渋滞も混乱に拍車をかけている。上昇傾向が続けば家計を一段と圧迫する恐れがある。
「米国産の輸入牛肉の仕入れ値が昨年秋の2倍くらいに跳ね上がった。仕方がないので違う部位や国産牛肉を売ったりしている」
東京都練馬区のスーパー「アキダイ関町本店」の担当者は、そう漏らす。食用油も値上がりしているとして、別の担当者は「日常的に使う物の値段が上がると家計に響く」と懸念する。
牛肉は干魃に見舞われた豪州産の供給が減ったことで、米国産に需要が集まった。農畜産業振興機構によると、米国産冷凍ばら肉の4月の平均卸売価格は1キロ当たり1027円で前年同月の約1・7倍に上る。特に景気が急回復した中国の消費増などが背景にある。
加工食品では、J-オイルミルズが8月納品分から家庭用食用油を1キロ当たり50円以上値上げ。中国の需要増に加え、大豆や菜種など原材料の国際相場に投機マネーが流れ込んでいることも挙げられるという。
原料高からマヨネーズ類や小麦粉を値上げする動きも出ている。
物価上昇はコロナ禍に起因しているものが多い。一時的に製品やサービスの生産をはじめ、経済活動を縮小していたところに需要が急回復し、供給が追いつかなくなっているとされる。
海運大手各社が出資する定期コンテナ船会社「オーシャン・ネットワーク・エクスプレス」の担当者によると、米西岸の一大集積地であるロサンゼルス・ロングビーチは、混雑で入港するのに1週間待ちの状況が続いていたという。
港湾スタッフらへのワクチン接種が進み、港湾作業の労働力不足は改善されたが、「貨物の増加自体が負荷になっている」と直近でも2~4日待ち。さらに混雑を避けた船舶が押し寄せるなどして、同じ北米西岸の一部主要港が1週間待ちになっているという。
国際的な主要航路である上海~ロサンゼルス間のコンテナ船運賃は、今年4月が前年同月の約3倍に達しており、こうした上昇分は最終的に消費者に跳ね返る。食品では北米産の牛肉や豚肉は主に船便で輸出されるため、直接的な影響も大きいとみられる。
航空の国際線貨物にも余波は及んでいる。ANAホールディングスの広報担当者によると、本来は船便で運ぶ予定だった貨物を航空便に変更する事例が出ており、今年3月には月間貨物便数が過去最多を更新。令和元、2の両年度第4四半期を比べると、輸送重量ベースではわずかな伸びなのに対して収入が2倍以上に増えており、単価の上昇が見て取れる。日本航空の広報担当者も「海上物流の混雑などで航空貨物の需給バランスは近年まれに見る逼迫(ひっぱく)状態」と話す。
原油高を背景にした電気料金の値上げなども重なっており、野村総合研究所の木内登英(たかひで)エグゼクティブ・エコノミストは「今回の物価上昇は、経済回復が遅れている日本にとっては生活を圧迫し、回復を妨げる恐れがある。要因は海外にあるのに結果を押しつけられている形だ」と話す。(福田涼太郎)
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