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自動車変速機大手のジヤトコ(静岡県富士市)が常識を上書きし、新しい取り組みを始めた。簡単に言えば、「開発中の部品を載せた試作車を一般の人に乗ってもらう」だ。こういった試作車を、部品納入先である自動車メーカーが評価することはよくある。クローズドなテストコースで、メディア関係者が試乗させてもらうことも時々ある。一般の人に体験させるのは非常に珍しい。狙いはどこにあるのか。
「極秘」という選択肢以外はないと思っていた。そして、「そこまでやっちゃって大丈夫?」と驚いた。いい意味で。
自動車部品の開発期間は長い。数年の時間をかけて、多くの技術者が幾多の議論を交わしながら仕上げていく。顧客となる自動車メーカーからの要求で、仕様を変更することも少なくない。それでも、消費者にはさっぱり響かないときだってある。
「4年間コツコツと開発してきた部品が、完成した後に『ダメ』と言われた時の絶望といったら……」。こう話すのは、ジヤトコで働くベテラン技術者だ。詳しくは突っ込めなかったが、何だか実感がこもっていた。
蓋を開けたらびっくり─。トラウマになるような事態を避け、ヒットの確率を上げる。こんな狙いでジヤトコが始めたのが、開発中の部品を載せた試作車を一般の人に評価してもらうことだ。同社にとっては、「量産前の試作ユニットを搭載したクルマを(一般の人に)試乗してもらったのは今回が初めて」(同社の関係者)だという。競合他社に情報が漏れるかもしれないが、そのリスクも承知の上だ。
EVでよく聞く“変速機不要論”
2023年12月、富士スピードウェイ(静岡県小山町)の片隅に、ジヤトコが仕立てた試作車が並んだ(図1)。この日は日産自動車系のモータースポーツに関するファン感謝イベント「NISMO Festival at Fuji Speedway 2023」が開催されていた。メインのコースや正面広場などから聞こえる歓声や音楽が耳に届く場所にある小さなコースで、試作車の体験会が始まった。
ジヤトコが用意したのは、変速機を搭載した電気自動車(EV)である。モーター駆動のEVでは“変速機不要論”をよく聞く。実際、量産中のEVのほとんどは変速機を採用していない。量産EVで変速機を搭載しているのは、ドイツPorsche(ポルシェ)の高級EV「タイカン」をはじめとする限られた車種だ。
ポルシェのタイカンは、2速の変速機を備える。採用の大きな目的は、「最高速度の確保」である。EVに変速機を使う利点としては最高速度の他に、「発進時の力強い加速」「けん引性能の向上」「高速走行時の電力消費量(電費)の改善」─などが挙げられる。変速機を使うことで小さなモーターで済むようになることから、最近では「希土類元素(レアアース)使用量の削減」に寄与するといった声もある。
全てのEVに変速機を搭載する必要はないだろう。それでも、車両質量の大きなクルマや商用車、スポーツ車などでは活躍する場面がありそうだ。筆者も「搭載の境界線はCセグメント車」と自動車メーカーのEV技術者に聞いたことがある。
EV向け変速機は新しい技術領域で、将来ニーズをはっきり予測するのは難しい。だからジヤトコは、「極秘」という部品開発の常識を書き換えた。「実際にクルマを使う一般の人に聞いてみればいいじゃないか」と。
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