ホンダと日産自動車は、自動車の電動化や知能化が急速に進む「100年に一度の大変革期」の中で、新興メーカーなどとの競争に勝ち残るために協業する検討を始めた。両社が手を組む背景には「競争を勝ち抜く上でこれまでの常識や手法に縛られていては到底太刀打ちできない」(内田誠日産社長)との危機感がある。協業は同様の危機感を持つサプライチェーン(供給網)の生き残りにもつながっており、国内自動車産業の競争力維持にとっても大きな意味を持つ。(編集委員・錦織承平)
ホンダと日産は国内ではトヨタ自動車に次ぐ2位、3位の位置付けで、国内外で競争してきた関係だ。マークラインズの資料によると、2023年の自動車生産台数の実績はホンダが約407万台、日産が約329万台。合計すると約737万台の規模になり、トヨタ自動車グループ、独フォルクスワーゲン(VW)グループに次ぐ世界第3位の規模となる。
成長戦略ではホンダは米ゼネラル・モーターズ(GM)と電気自動車(EV)量販車の共同開発を進めてきたが、EV市場の急速な変化を受けて、共同開発を断念したばかり。日産は仏ルノーとの提携を見直し、独自の成長戦略を描こうとしているところだ。そうした状況も両社を新たなパートナーとして結び付けた要因と考えられる。
マークラインズのデータによると世界の主要14カ国の電動車市場では23年のEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、燃料電池車(FCV)の販売台数約1196万台のうち、中国・比亜迪(BYD)と米テスラが合わせて36%以上のシェアを占めて先行。日本車メーカーは新車投入などで出遅れているのが実情だ。遅れを取り戻すべく、ホンダは40年までに新車販売の全てをEVとFCVとする計画で、日産も30年度までに新車販売の55%を電動車とする方針。両社ともに中長期の電動化戦略を打ち出している。
ただ、足元では世界でEV販売の伸びが鈍化して、ハイブリッド車(HV)やPHVの販売が伸びるなど、電動車市場の拡大ペースにも変化がある。そのため両社には、いかにして足元の収益を稼ぎつつ、将来の電動化に向けた投資資金を稼ぎ出すかが課題となる。積極的な投資方針を打ち出すテスラやBYDに対し、互いの技術を持ち寄って電動化や知能化に必要な基幹部品や車載ソフトウエアを共通化し、投資負担を分担。「業界のトップランナーとして自動車の価値創造をリードする存在」(三部敏宏ホンダ社長)であり続ける道を探っている。
両社の協業は、部品メーカーなどのサプライチェーンにとっても大きな意味がある。部品メーカーも完成車メーカーの戦略に合わせて電動車などへの将来投資が必要になる中で、生産台数の規模を確保できれば、投資負担が軽減できる。両社に電動車の駆動装置「イーアクスル」やその部品を供給する日立Astemo(アステモ、東京都千代田区)にホンダと日産が共同出資するとの見方が浮上するなど、サプライヤーを巻き込んだ協業に発展する可能性も出てきた。
企業文化の違うホンダと日産がどのように歩み寄り、生き残りに向けた協業を実現するのか、経営陣の本気度が問われる。
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