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Saturday, March 25, 2023

ノック不要シャープペン「クルトガ ダイブ」開発秘話。部品数は通常の4倍 - Impress Watch

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三菱鉛筆が、書き始めから書き終わりまでノックすることなく書き続けられるシャープペン「KURUTOGA DIVE(クルトガ ダイブ)」を3月3日に発売しました。芯を自動で繰り出す機能に加え、三菱鉛筆独自の特許技術を用いた世界初の自動繰り出し量調整機能など、様々な技術が盛り込まれています。このKURUTOGA DIVEの開発背景や狙いについて、三菱鉛筆の商品開発部 荒木健太郎さんと、研究開発センター品川 福田昂正さんに聞いてきました。

何人もの開発担当者が関わり続けて実現した自動芯繰り出し

三菱鉛筆 研究開発センター品川の福田昂正さん(左)と、商品開発部 商品第一グループの荒木健太郎さん(右)

KURUTOGA DIVEの価格は5,500円で、三菱鉛筆は展開しているシャープペン「クルトガ」シリーズの中でもフラッグシップモデルとなります。まず、ベースとなっているクルトガシリーズとはどういったシャープペンなのでしょうか。

「搭載されたギア『クルトガエンジン』が、文字を書くときの筆圧を利用して芯を少しずつ回転させることによって、芯を常に尖った状態にキープするシャープペンです。芯の先端が斜めになって文字が太くなったり、折れやすくなったりすることなく、一定の太さで書き続けられる点が特徴になります」(荒木さん)

クルトガシリーズで最初に発売されたのが、2008年3月発売の「クルトガ スタンダードモデル」。当時はグリップの握り心地を特徴とするシャープペンなどはあったものの、機能性シャープペンはなく、その先駆けだったといいます。

クルトガ スタンダードモデル(495円)

KURUTOGA DIVEはクルトガの機能に加え、一定の画数で芯が自動的に繰り出される機構を備え、筆記中のノックを不要とした「自動芯繰り出しシャープ」です。さらに、キャップを外すと自動で芯が出るため、書き始めの時もノックの必要はありません。

現在では芯を回転させる機構を搭載したシャープペンを、クルトガシリーズを中心に数多く展開していますが、芯を回転させるだけでなく、自動繰り出しまでというのはいつ頃から考えていたのでしょうか。

「クルトガの誕生は15年前ですが、自動繰り出しの構想は、クルトガが生まれるより前からありました。形として研究が進んだのは10年程前からですが、今回このような形になるまでには、研究開発を歴代の担当者で引継ぎながら続けてきました」(荒木さん)

芯を回転させることと自動芯繰り出しの狙いは、筆記時のストレス軽減という点で共通していますが、出発点は「クルトガの新機能」ではなかったわけです。それでもKURUTOGA DIVEの特設ページで「自動芯繰り出しはクルトガエンジンの回転を前後動に変換することで行われます」と記載されており、クルトガがあって生まれた技術です。この技術のすごさについて、素人でも漠然と分かりやすいような数字を示してくれました。

「KURUTOGA DIVEで使われている部品数は45です。これは通常のシャープペンの約4倍になります。クルトガも部品数は多い方で約20なのですが、その2倍にも及びます」(福田さん)

部品数を示す設計図を見てもどこにどんな技術が盛り込まれているのか分かりませんが、通常の4倍の部品数と聞くと、開発も製造も緻密で大変な作業であることが想像できます。では、「回転を前後動に変換する」とは、具体的にどういった動きなのでしょうか。

「クルトガエンジンは文字を書くことで芯が回る機構です。このクルトガエンジンの回転を利用する、もう1つの回転機構を搭載しました。この新機構が、らせん状のスロープのようなパーツの坂道を回転とともに上っていき、1周回ってスタート地点に戻ると、元の高さにストンと落ちます。この落ちる動作がノックの代わりの前後動となり、芯が繰り出されるわけです」(福田さん)

このスロープが、KURUTOGA DIVEのもう1つの特徴である、繰り出し量調整にも関わってきます。

「ストンと落ちる直前のゴール地点と、落下点となるスタート地点の落差が大きければ繰り出し量が多くなり、小さければ繰り出し量が小さくなります。この落差を調整する機構を、また別に搭載しています」(福田さん)

繰り出し量調整は5段階あり、調整のためのパーツは筆記時には常に表に出ています。そのため書いている最中でも、ちょっと出過ぎるなと思ったら短めに、もう少し出したいと思ったら長めの設定にできます。ただし、調整パーツを回転させると同時に芯が出たり入ったりするわけではなく、次回の自動繰り出し時に設定した長さになる仕様です。

繰り出し量調整は「MIN」「MID」「MAX」およびそれぞれの中間点の計5段階。シルバーのリングのパーツを回すことで調整できる

「芯が減る量は、筆圧やHB、2Bなどの芯の硬さ、そして何に書いているかの、複数の要因が重なり合って決まります。何に書いているかという点を具体的に言うと、ノートの場合はクッション性やフワリと浮いているような緩さがあるので、芯の減りは遅いです。一方でプリントやルーズリーフなどの1枚の紙を机の上に置いて書く場合はクッション性がないので減りが早くなります。そのため、状況に応じて繰り出し量をすぐに変えられるようにしているのです」(荒木さん)

一度好みの量に設定したら、そのまま固定して使い続けてしまいそうですが、状況に合わせて即座に変えることも想定した設計なんですね。実際に使用する際の参考になります。

キャップ式にすることで、いつでもどこでも使ってもらえる筆記具に

KURUTOGA DIVEにシャープペンらしかぬ雰囲気を感じる一因として、キャップの存在が挙げられます。このキャップにも“新開発”が盛り込まれており、キャップを外すと一定量の芯が繰り出される、初筆芯繰出機構が搭載されています。

芯をしまった状態(左)でキャップを着けて(中)、キャップを外すと芯が出ている(右)

「KURUTOGA DIVEは先端部分を本体側に押し込むと芯が出る仕組みになっています。キャップには、この先端部を押し込む仕組みが仕掛けられているので、キャップを外した時にはすでに芯が出ている状態になるのです」(荒木さん)

先端部分が本体側に押し込まれる設計になっている

なお、使い終わった後に芯をしまわずにキャップをしても問題ないそうです。

使用時はキャップを後端に取り付けられる

キャップを外してすぐに書けるのは便利だと思いますが、キャップを外す動作よりも、最初に1回ノックする動作のほうが楽のようにも感じます。そう思う人がいることを承知の上で、キャップ付きとした理由には大きく2つあるといいます。

「1つ目は、シャープペンの先端部分を守ることです。シャープペンの先端は細いので、持ち運び時にペンケースの中で強い衝撃や圧力が加わると、曲がってしまう場合があります。これを防ぐためにキャップ式にしました」(荒木さん)

シャープペンとしては高価な製品であることから壊れにくい設計を採用するという考えに加え、機能やデザインを気に入って購入した人に日常的に使ってもらいたいという思いも込められています。

「“持ち運んでいる時に壊れてしまうかも”という心理が働くと、大事に使おうとして、持ち運び用として別のシャープペンを用意してしまうかもしれません。でも我々としては、いつでもどこでも、常にこのシャープペンを使ってほしい。そのためには、不安要素のないモノにする必要があったわけです」(荒木さん)

モノづくりに携わる人たちのゴールは、新製品完成でも目標販売数達成でもなく、買った人が長く使い込むことなんですね。

もう1つの理由には、KURUTOGA DIVEの製品コンセプト“「書く」にのめり込む”が関係しています。

「キャップを外す行為が、”これから書くぞ”という気持ちを入れるスイッチになってくれればと考えています。スイッチを入れた後は『書く』にのめり込んで、書き終わったらキャップを閉じる行為によって“パチッ”とオフにする。オン/オフのスイッチがあることによって、より書くことに集中できるのではないかという考えです」(荒木さん)

キャップをスイッチにするという考えから、キャップ着脱時の操作性はもちろんのこと、音にもこだわったといいます。

「キャップ部分にはマグネットを仕込んでいて、それほど力を入れずに外せますし、閉じるときは押し込むことなくスムーズに装着できます。そしてマグネットの吸着効果により一定の力加減で着脱できるので、常に同じように“カチリ”という音が鳴ります」(荒木さん)

たしかに、特に閉じるときにはある程度の位置までキャップが到達すると、自然にキャップがはまります。通常のキャップであれば押し込むことでしっかり閉じられるのですが、KURUTOGA DIVEの場合は最後にキャップから手を放すことで閉じられるのです。そして着脱の感触や音が心地良く、意味もなく着けたり外したりを繰り返してしまいそうです。

カラーはアビスブルー、デンスグリーン、トワイライトオレンジの3色。のめり込む情景をイメージする色合いと上質感を狙いとしているそうです。この高級感のあるデザインや価格から、大人のための文具にも思えるのですが、実際にはどういったユーザー層を想定しているのでしょうか。

「ピンポイントでの想定はなく、第1には普段シャープペンを使っている全ての方です。機能もデザインも年齢や性別を問わない製品に仕上げていますので、学生から社会人まで幅広く使ってほしいですね。また、ほとんどの方にシャープペンを使っていた時代があると思います。それがいつしか、ボールペンしか使わなくなった。そういう方々が、KURUTOGA DIVEのような、機能性に長けて、デザイン的にも存在感があるものだったら使ってもいいかなと感じて、もう1度シャープペンに戻ってきていただけたら嬉しいです」(荒木さん)

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