サッカーは若者だけのスポーツ、そう思っている人は多いのではないだろうか。だが今、シニア年代でもサッカーを楽しむ人が増えている。日本人として初めてドイツでプレーした元日本代表の奥寺康彦さん(70)に、現地で学んだ生涯スポーツについて聞いた。 (谷野哲郎)
◆「自分が何をしたいか」基準に 誘いにのってみて 挑戦を大事に
−奥寺さんは一九七七年から八六年までドイツでプレーしました。スポーツ先進国で感じた日本との違いを教えてください。
「大勢のシニアの方がサッカーやテニス、乗馬などのスポーツを楽しんでいるのを見ました。向こうは大小のスポーツクラブがいっぱいあって、適度な値段で簡単に入れる。スポーツをやるハードルが日本より全然低いんですね」
−どうして、スポーツをするハードルが低いのでしょうか。
「ドイツ人の考え方は『自分が何をしたいか』が基準。だから、水泳をやりたいと思えば始めて、やりたくなくなったらやめる。すごくシンプルなんです」
−文化の違いもある。
「はい。子どもたちのサッカーの試合を見ながら、お父さんたちがビールを飲んでいる。日本だと不謹慎だと言われそうだけど、スポーツは楽しむものという文化が浸透してます」
−地域のコミュニティーも多いそうですが?
「例えば、お茶会が目的の地域クラブでもお年寄りが風船を使ってポンポンと遊んでいるんです。世界にはいくつになっても、体を動かして楽しむ人たちがいることを知りました」
−だから、奥寺さんも?
「はい。僕は今でもシニアのチームでサッカーをしています。五、六十代の人が早朝から集まって、練習したり、試合をしたりするんです。楽しいですよ」
−なかなかきっかけがないという人もいます。
「友人や知人から『一緒にやろうよ』って言われてやるケースがほとんど。そういう誘いに乗ってみては。サッカーでなくてもいいんです。ゲートボールでもグラウンドゴルフでも、地域の活動に目を向けてみるのもいいでしょう」
−健康の秘訣(ひけつ)は?
「日本では多くの人が学校を卒業したらスポーツから引退してしまいますが、それではもったいない。ドイツのように体を動かす、地域とつながる、何かに挑戦する気持ちを持つことが、これからの時代に大事なことだと思っています」
<おくでら・やすひこ> 1952年、秋田県生まれ。77年に日本リーグ古河電工から、西ドイツ(現ドイツ)の1FCケルンに入団。欧州で日本人初のプロ選手となる。ドイツでは約10年プレーし、通算235試合25得点。日本代表は32試合9得点。2014年にAFC殿堂入りした。現在は横浜FCシニアアドバイザー。
◆JFA、シニアに注目 全国大会も
日本サッカー協会(JFA)もシニアに力を入れている。二〇一四年に年齢などに関係なくサッカーを楽しむ「グラスルーツ」宣言を発表。生涯スポーツとしての環境を整えてきた。
サッカーはU−(アンダー)20(二十歳以下)などの若い年代の年代別が有名だが、実はO−(オーバー)40(四十歳以上)、O−50(五十歳以上)、O−60(六十歳以上)、O−70(七十歳以上)のシニア年代のカテゴリーもある。
それぞれ全国大会が開催されており、今年で十六回目を迎えたO−70の場合は十二チームが参加。十五分ハーフで行われた決勝戦は千葉県の「アスレチックちば」が優勝した。
JFAに所属するシニアは二一年現在、千三百三十八チーム、約四万二千人。この十年で倍以上に増えた。この他に女子チームや各都道府県リーグも活動しており、今、注目される年代になっている。
JFA広報部は「今年六月には『シニアクリニック』という元プロが教える活動を始めました。経験者もそうでない方も、自分の体と相談して、無理せず、生涯サッカーを楽しんでもらいたいですね」と話した。
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