無駄な部品をなくせ~もう1つの部品数削減活動(5)
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かつて、経営危機に陥ったいすゞ自動車は部品の種類数を100万点から30万点に激減させて、抜本的なコスト削減を実現し、見事再建を果たした。そのときの部品数削減活動の陣頭指揮を執った伝説の技術者・佐藤嘉彦氏が、経営者や管理者、技術者向けに『部品数マネジメントの教科書』を書き下ろした。
本連載では、佐藤氏が開発した比較分析法「テアダウン(Tear Down)」を現場で実践しながら、長年交流を深めてきた盟友であるKSバリューコンサルティングの坂本幸一氏が、やはり現役時代に大なたを振るった部品数削減活動の体験談を明かす。第5回からは、部品数削減のための「『入り』を制して『出る』を促す」戦略を具体的にみていく。(技術プロダクツユニットクロスメディア編集部)
前回、産業車両・建設車両メーカーの大阪本社でVE(バリュー・エンジニアリング)推進部長として働いていた筆者が、親会社から赴任してきた超ど級のワンマン社長の一声でVE推進部長を解任され、関東の工場に30分で新設された部品共通化推進室長に任命されたこと。さらに急ぎ赴任した関東の工場で、約4万点の部品を2年で30%削減する、という非常に困難な目標の達成を命ぜられた経緯を説明しました。
約4万点の部品の内訳は一般部品と標準部品でした。毎年計画されている数車種のモデルチェンジの際には新規部品が必ず発生することを考えると、新規部品の増加分を吸収しつつ30%削減を達成するのは、非常に厳しい目標です。新規部品の増加分をできるだけ抑えつつ削減部品を増やしていく以外に方法はありません。つまり「入り」を制して「出る」を促すのです。
「チームデザイン」で無駄部品をあぶり出す
まずは、「出る」を促すです。具体的には、削減の大きな対象となる、設計者が無意識のうちに生み出してしまった無駄部品を見つけ、撲滅することにしました。ここは、VE(Value Engineering、バリューエンジニアリング)でいうところの「チームデザイン」の出番です。
チームデザインでは、いろんな人の知識や知恵を借ります。特に、そのことに最も詳しい専門家は貴重な存在です。そこで筆者らは、部品共通化推進室のメンバー以外の人にも大いに働いてもらうことが重要と考え、次の作戦を展開しました。
名付けて、「なんだっぺ?コール作戦」――。部品共通化推進室のある関東の工場は茨城県に立地していました。この地域は、ご存じの方も多いように「なまり」に特徴があります。そんな方言の中には、とても使い勝手のよい言葉があるのです。作戦名に冠した「なんだっぺ?」がそうです。これには、次のようなさまざまなニュアンスがあり、其処此処(そこここ)の場面で使われています。
- これ何なの?
- 何と言うことだ!
- 一体どうなっているんだ?
- 何やっているんだ!(と相手をなじる)
なんだっぺ?コール作戦は、現場で現物に触れ、現実を知っている人から情報をもらう仕組みです。まず、誰でも「なんだっぺ?部番は別だけど、同じ部品じゃないの?」と疑問に思ったら、すぐに我々部品共通化推進室に電話、すなわち「なんだっぺ?コール」をしてもらいます。
筆者らスタッフがなんだっぺ?コールを受けると、2名1組で現場に急行。現場・現物・現実の三現主義にのっとって状況を把握し、調査後に改善提案をまとめます。ただし、改善提案はなんだっぺ?コールをした人の名前で提出し、賞金もその人にわたるようにします。
我々は、こうしたなんだっぺ?コール作戦の趣旨と仕組みをまとめたビラを作成し、早朝の正門に部品共通化推進室のメンバー全員が立って、出勤してくる社員一人ひとりに配布し協力を呼びかけました。すると何と始業5分後に、なんだっぺ?コール第1号が鳴り響き、若いスタッフ2人が席の温まる暇もなく現場に向かいました。その後も、なんだっぺ?コールは鳴り続き、作戦は順調に運びました。
この活動はほどなく、筆者に部品数削減を命じた新任ワンマン社長の耳にも届いたようです。社長は、西の工場の部品共通化推進室長に電話し、「おい、坂本が面白いことをやってるぞ。すぐに、東の工場へ行って勉強して来い」と発破を掛けたそうです。
「ついに、動いてくれるんですね!」サプライヤーの大半が大歓迎
筆者らは、社内におけるなんだっぺ?コール作戦の成功に意を強くし、今度は社外の部品サプライヤーにも展開することにしました。部品共通化推進室のメンバー全員で巡回計画を立ててはサプライヤーを訪ね、なんだっぺ?コール作戦の趣旨と仕組みを説明し協力を要請。すると、大半のサプライヤーが、「ついに、動いてくれるんですね」ともろ手を挙げて歓迎してくれました。
実は、サプライヤーは、何年も注文のない部品であっても、廃番になっていないために突然注文が舞い込んだりすることから、おいそれと治具や金型を処分できません。そればかりか、重複部番を指摘して直してもらったつもりでいたところ、歯止めがかけられていないために、消したはずの部番を使って他の設計者が重複部品を復活させてしまうなど、当社の対応や体質に閉口していたのです。
なんだっぺ?コール作戦を支持してくれたサプライヤーの中には、「資材担当者が代わるたびにお願いしてきたのに…」と半ば諦めていたところもあれば、「自社で重複部番を整理し代表部番に集約する転換表を作成しました」と自衛策を講じていたところもありました。この転換表というのは、筆者らにとっても喉から手が出るほどほしい資料。作成していたサプライヤーに何度も頭を下げて頂戴したことはいうまでもありません。
かくして、なんだっぺ?コール作戦は多くのサプライヤーを巻き込んで展開するようになり、無駄部品をあぶり出して「出る」を促すことに成功したのです。
(次回へ続く)
坂本 幸一(さかもと こういち)
1947年徳島県生まれ。1969年名古屋工業大学機械工学科卒業。同年東洋運搬機(後にTCMに社名変更)入社。技術部VE推進部長、理事竜ケ崎工場部品共通化推進室長、取締役資材部長、上席理事VE推進部長を歴任後、日立建機VEC専任部長に就任。1992年米国VE協会認定の国際資格「CVS(Certified Value Specialist)」を取得。2012年KSバリューコンサルティング代表に就任し、現在に至る。コンサルティング活動のほか、各種セミナーを主宰する。
ライバルに打ち勝つ究極の処方箋
部品数マネジメントの教科書
筆者(佐藤)は、勤務先で部品数激減活動を展開した後、部品の廃番制度を導入しました。実は、部品数激減活動の中で、取引先から最も感謝されたのは、この制度でした。
なぜか――。取引先の多くは、貸倉庫に補修用の治具や金型を保管していました。廃番制度を導入する以前は、「その部品は廃番にしたから、補修用の治具や金型は捨てていいよ」と言っても、なかなか信用されませんでした。なぜなら、後になって「あの部品ないかな」と、前言を翻すことがたびたびあったからです。
しかし、廃番制度の導入により、疑心暗鬼だった取引先も重い腰を上げ、廃番となった部品の補修用の治具や金型を処分し貸倉庫を明け渡しました。結果、貸倉庫代が大きく浮くことになり、筆者は取引先から大いに感謝されたのです。
(本書「第2章 部品数マネジメントは立派な経営課題」より抜粋)
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