スーパーリーグ?サッカー?なんか最近そんなこと言ってたね、という程度の人も多いだろう。私も熱烈なサッカーファンから程遠い。いやでも目に入る超ビッククラブや有名選手は知っている。想像を超える金額の年俸でやり取りされる一流選手たちを冷ややかに見ながら、お金と強さが完全に比例しているビックチームの「競争」なんて面白くもなんともないと思っている。
一方で、地元チーム(OHルーヴェン)がベルギーの一部リーグに上がった今シーズンはテレビでしっかり応援した。コロナ前のことだが、2部リーグで低迷していた地元チームの応援に何年もスタジアムに足を運んだ。また、ここ数年、類まれな才能が集結しているのベルギーナショナルチーム(レッドデビルズ)の活躍には燃える。が、レッドデビルズのトップ選手がレアル・マドリード(スペイン)やマンチェスター・シティ(英)でプレーしているのはまあ、どうでもいい。外国人の私でもサッカーを通じて郷土愛的なものを感じる。
サッカーは地元のファンと愛で支えられている。少なくとも歴史的にはそうだし、商業主義を深めていくサッカー産業の中にあっても、その精神と誇りは根強い。日本のプロ野球、高校野球、サッカーも然りだろう。
サッカーファンのパートナーと中学生の息子が朝から「ありえない」とブリブリ怒っている。前日4月18日に、レアル・マドリードやバルセロナ、マンチェスター・ユナイテッドなどヨーロッパの12のビッグクラブが、スーパーリーグを創設する構想に合意したと唐突に発表した。チャンピオンズリーグ(クラブチームによる欧州リーグ)のこともよくわかっていない私は、その意味が分からず「それがどうした」と静観。
それからはすごかった。サポーターを中心にツイッター上で抗議が始まり、サッカーコミュニティーを一気に超えて加熱。イギリスではリバプール、チェルシー、マンチェスターのスタジアム前にサポーターたちが集まり、「サッカーは私たちのもの、あんたのものではない」「サッカーは貧しい労働者によって作られて、金持ちに奪われた」と横断幕を広げた。アメリカ型のスーパーリーグ構想は、今まで我慢してきたサッカーサポーターの逆鱗に触れる境界を超えた。
「あんた」とはビッククラブのオーナーである。近年、ヨーロッパのビッククラブはアメリカ、ロシア、中東などの億万長者に所有されている。リバプール、マンチェスターユナイテッド(MU)、アーセナル、ACミランはアメリカの億万長者に所有されている。スーパーリーグに当たってはアメリカの金融大手、JPモルガン・チェースが投資する設計だった。JPモルガンはヨーロッパサッカーを有望な投資対象と標的を定めた。
この構想が発表からたった72時間で葬られたのは、イギリスのサポーターの頑張りによるところが大きい。若いアーセナルサポーターのビデオが100万回再生された。彼は「奴らはこの国のサッカーのことを何も知らない。ファンなしのサッカーなんてない。労働者の僕らが、勝つときも負ける時も毎週毎週スタジアムで応援するからサッカーができるんだ。」と怒りに震えて涙ながらに抗議した。
実際、元々は鉄道会社のサッカー部だったマンチェスターユナイテッド(MU)を支えてきたのは労働者たちであった。今は高額のチケットのため地元の労働者の姿はスタジアムにない。変わりに世界中から集まる金持ちファンの観光の目玉になってる。
アーセナルサポーターの言う「奴ら」とはサッカーに縁も愛もないアメリカなどのスーパーリッチのオーナーたちを指しているのだろう。より正確には、アメリカのメジャーなプロスポーツでは当たり前のカルテル的なリーグで、参戦チームを強豪だけで固定化するやり方が批判の的となった。チームの昇格や降格はほとんどなく、同じ強豪チームが対戦する。固定化されたリーグでチームというより強大な企業組織は、テレビの放映権、スポンサー、商品化で優位に立ち、さらに資本を蓄積していく。真の競争よりもスター選手によるエンターテイメント。独占は強まり、強いものの発言力と利益を最大化する。
サポーターの怒りは、チームの監督や関係者に共鳴し、ヨーロッパサッカー連盟(UEFA)も抗議の強い立場を取ったことで、参加表明した12チームは次々に脱退、スーパーリーグ構想は瓦解した。
ヨーロッパのサッカーサポーターは行き過ぎたお金と利益のサッカーに限度があることをしっかりと示した。ここで終わってはいけない。ほとぼり過ぎれば、性懲りもなく次のスーパーリーグ構想がやってくる。今こそ、行き過ぎたサッカーの改革の機運と言える。
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