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Friday, February 12, 2021

女子プロサッカー「WEリーグ」元年。ノジマステラ神奈川相模原がプロ化で追求する意識改革と地域密着(松原渓) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース

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【2年目の北野体制で飛躍なるか】

 神奈川県相模原市をホームタウンとするノジマステラ神奈川相模原は、今年9月に開幕予定のWEリーグ(日本女子プロサッカーリーグ)に参戦する。1992年のJリーグ発足時に加盟した10クラブは通称「オリジナル10」と呼ばれたが、WEリーグは11チームで、初年度に参入するチームは「オリジナル11」となる。

 ノジマは2012年に家電量販店の「ノジマ」が全額出資して創設され、女子単体のチームとして2017年からなでしこリーグ1部で戦ってきた。選手はノジマの社員として、午前中に仕事をして午後の早い時間から練習できる環境があり、専用の練習場を持つなど、なでしこリーグでもプレー環境が恵まれたチームの一つだった。今年からはプロクラブに生まれ変わる。午前中の社業はなくなり、選手たちはサッカーに集中できる環境となる。

 ノジマは、2012年にクラブ創設に力を尽くした“生みの親”である菅野将晃監督体制で7シーズン、野田朱美監督の下で19年の1シーズンを戦い、昨季、北野誠監督を新たに招聘。北野監督は、それまでとは異なるアプローチでチームを作り直した。故郷・香川県のカマタマーレ讃岐では、「昇格請負人」や「残留請負人」とも言われた指揮官は、「ポゼッションサッカーかカウンターサッカーかに興味はなくて、いかにボールを前に運んで、いかに相手のボールを奪うか。そういうことを教えたい」と話し、ボールの置き方や体の使い方、プレスの掛け方、試合の分析方法など、様々な角度から選手たちに刺激を与えた。

 相手のキープレーヤーやウィークポイントを分析し、試合を優位に進めるための策は複数用意していた。そして、13節ではリーグ5連覇中だった日テレ・東京ヴェルディベレーザにクラブ創設以来となる初勝利を飾るなど、大きな収穫もあった。一方、ボールを奪った後の組み立てや最終ラインからのビルドアップは個に頼る部分が多く、先制されると流れを引き戻せずに敗れることもあり、結果的には10チーム中8位だった。

 12月の昨季皇后杯で、日テレ・東京ヴェルディベレーザに0-5で敗れた後に、北野監督はこう語っている。

「うちは一人一人がすごく頑張るのですが、サッカーは個々が頑張っても、11人が連動できなければやってはいけない。頑張るのが当たり前で何年もやってきたと思いますが、サッカーは11人で頑張らなければいけないスポーツです。それをシーズン通して伝えきれず、改善できなかったことは課題として残りました」

 2年目の北野監督の下でプロリーグ初年度を迎える今季は、昨季の苦しみを結果に昇華させられるだろうか。

北野監督(右)と、田邊友恵アカデミーダイレクター/U-18監督
北野監督(右)と、田邊友恵アカデミーダイレクター/U-18監督

【注目の新戦力は?】

 ノジマは、今冬のオフに選手が大きく動いたチームの一つだ。

 主力では7年目のFW南野亜里沙と、6年目のMF川島はるながそれぞれWEリーグのジェフユナイテッド市原・千葉レディースとサンフレッチェ広島に移籍。2年目のDF櫻本尚子と3年目のMF田中萌は、韓国WKリーグの水原WFCでの海外挑戦を選んだ。また、リーグ300試合を達成したMF中野真奈美と3年目のFW松田早和は、WEリーグの次のカテゴリーとなるなでしこリーグのチームに移籍。24歳のGK森田有加里とDF大隅沙耶は引退を発表し、森田は指導者の道(今後は三浦学苑高校女子サッカー部監督)に進むという。

 一方、新加入選手は9名が決まっている。昨季なでしこリーグで4位のセレッソ大阪堺レディースの躍進を支えたMF脇阪麗奈、MF井上陽菜、MF野島咲良の21歳トリオは、技術と運動量でポゼッションに安定感を与えるだろう。伊賀FCくノ一から加入したDF畑中美友香は、166cmの高さとスピードを生かした守備を武器とするセンターバックだ。18歳で伊賀に加入してから6シーズン、全試合に出場しており、即戦力となるだろう。ディフェンスラインにはDF大賀理紗子の復帰も見込まれており、層の薄さが懸念されていた最終ラインは、一気に活性化しそうだ。それによって、攻守の中心となるMF松原有沙がより高い位置でプレーすることができれば、攻撃面にも好影響が見込まれる。GKも、マイナビ仙台レディースから池尻凪沙が加入し、競争力が増した。その他、DF下山莉子(←日体大FIELDS横浜から)、FW松本茉奈加(←早稲田大)DF伊藤珠梨(←大商学園高)、下部組織のドゥーエ(イタリア語で数字の2)からMF中山未咲の計4名が加入。堅実な補強をした印象だが、得点源だった南野の穴を埋めるストライカーの獲得には至っていない。現状は21名だが、開幕までに外国籍選手の獲得があるかもしれない。「Jリーグも夏に補強をします。チームは生き物で、変化を求めたいから移籍はどんどんやればいいと思います」と、北野監督も更なる新戦力獲得の可能性を否定していない。

DF畑中美友香
DF畑中美友香

 2月8日の始動日は、朝10時半から約2時間、専用練習場であるノジマフットボールパークでトレーニングが行われた。

 松原有沙は、これまで平日の午前中はノジマの店舗で仕事をしていた。プロ化による変化について、こう語る。

「仕事がなくなったのは大きな変化で、よりサッカーに打ち込める環境になりました。今は時間をいかに有効に使うかを考えています。午前中に練習をして、午後はフリーの時間なので、(空いている時間で)対人プレーや、スピードやアジリティを向上させていきたいですし、そのために必要な筋力とか、走り方の改善に重点的に取り組みたいと思っています」

MF松原有沙
MF松原有沙

 4年目の松原は、代表候補で、キック力や対人の強さはリーグ全体でもトップクラス。朗らかな性格で人を惹きつける力があり、新戦力とのつなぎ役にもなれるだろう。ピッチ上では、プレーで牽引するリーダーシップにも期待がかかる。

 その松原とともに、今季ピッチ上で軸となりそうなのが、新加入のMFだ。ピンチの芽を摘む危機察知力や、攻撃の起点として縦パスを入れる能力が高く、運動量も魅力のダイナモ。昨年10月の代表合宿ではA代表に初招集され、持ち前のボール奪取力を生かしてアピールした。

 本職のボランチ以外にも、センターバックやアタッカーとしてプレーした経験がある。ノジマでは、「どのポジションもできると思っていますが、攻撃でも守備でも特徴が出せるボランチをできたら、チームを引っ張っていけるかなと思います」と、大きな瞳を輝かせた。

 C大阪堺時代にノジマと対戦した際には、「前線からプレスをかけて繋ごうとしたり、(C大阪堺と)似たサッカーをしていて、魅力を感じていました」という。そのクラブから熱いオファーを受けたことと、これまでは2時間半かけて練習場に通っていたため、サッカーに集中できる環境も加入の決め手となった。

「目指していたプロサッカー選手になることができて、とても嬉しく思います。プロになることは、サッカーを中心に生活しながら、見ている人に元気を与えたり、家族などに恩返しをすることだと思っています。喜びとプレッシャー、両方を感じながら楽しんでプレーしたいと思います」

MF脇阪麗奈(右)左は松原有沙
MF脇阪麗奈(右)左は松原有沙

【プロチームへの意識改革】

 北野監督は、良いこともそうでないことも、ストレートな言葉で伝える。監督に就任した際の記者会見では、「タイトルを獲れると思います」と宣言し、リーグ全体をよりハイレベルで多くの人に見られるようにしたいという思いを示した。試合中は、ベンチからの指示やレフェリーへのアピールがスタンドまで聞こえてくる。あるいはそうした言動も、チームを鼓舞して駆け引きを優位に導く心理戦の一環なのだろう。

 負けた試合で、時にはチームの不甲斐なさを指摘する言葉は辛辣をきわめた。だが、そういう試合の後も、戦術の話から熱いサッカー談義へと話が広がっていくこともあった。

 ほとばしるそのエネルギーは、今年も健在だ。

「女子サッカーは、試合中の変化が少ないと思うんですよ。Jリーグは10分、15分でどんどん戦い方を変えていく。サッカー好きな人はそのやり合いが楽しいし、去年は(ノジマで)そういうことにトライして、それを体現できる選手が残ってくれました。今年はさらに自分たちのベースを強化しつつ、相手によって(戦い方を)変化させていきたいと思います」

 各選手のポジションの適性をどのように考えているのかを聞くと、言葉はさらに熱を帯びた。

「ポジションの概念を崩したいんです。サイドバックだからこう、中盤の選手だからこう、ではなくて。サッカーはどのポジションでも関係なく、全員が攻めて全員が守る。現代のサッカー好きな人たちは、それを求めていると思います」

 変幻自在で強いーー今年は、そんなサッカーを見せてくれることに期待したい。

 なでしこリーグは3月末に開幕だが、WEリーグは秋春制でスタートするため、移行時期となる今年は開幕まで7カ月間の期間がある。その間に五輪も予定されているが、コロナ禍で状況は不透明だ。各チームにとってもこの空白期間は未知の経験で、コンディション作りなど、イメージ通りにいかないこともあるかもしれない。加えて、大宮アルディージャVENTUSやサンフレッチェ広島F.Cのように新たに参入チしたチームについては、分析材料がない。そのように不確定要素が多い中で、北野監督が自信を見せるのは、チームの伸びしろだ。

「うちは若い選手が多いので、どう変化していくのかわからないですし、そういうところを一年を通して見てほしいですね。プレシーズンマッチの4試合とはまったく違うことが、リーグ戦でできるかもしれない。リーグ戦が終わった時にどういうサッカーだったかということがわかると思います」

「プロとは何か」というテーマについても、Jリーグで長く指導してきた経験から一家言ある。始動日の練習前のミーティングでは、「1日のうちの練習以外の22時間をどうデザインするか」という話や、引退後についても考える必要性があること、お金をもらいながらサッカーをすることの意味などを、選手たちに伝え、意識改革を促した。

 地域密着という観点でも、相模原から女子サッカーを盛り上げ、WEリーグを活性化していきたい思いがある。

「Jリーグと比べてWEリーグはあまり地域に根ざしていない印象なので、(ノジマは)もっと神奈川県や相模原市に出て(活動して)いかないといけないと思います」

 同じホームタウンのSC相模原が昨季、J3で2位となり、J2に昇格したこともあり、「相模原SCがJ2に上がったので、そこについていけば、自ずとこちらにも注目してくれると思いますし、同じようにやっていきたいですね。地域を代表する女子チームになるようにやっていけば、もっと応援してもらえるのではないかなと思います」と、語気を強めた。

 プロ1年目の新チームがお披露目となるのは、4月24日に始まるプレシーズンマッチだ。新ユニフォームに身を包んで舞台に立つ選手たちの姿が楽しみだ。

新戦力が加わり、チームの雰囲気が変化した
新戦力が加わり、チームの雰囲気が変化した

※写真はすべて筆者撮影

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