連係攻撃の昌平か、速攻の京都橘か
注目のカードが実現した。第99回全国高校サッカー選手権大会の2回戦が2021年1月2日に行われるが、中でも昌平高校(埼玉)と京都橘高校(京都)の対戦は、要注目だ。ともにハイレベルな選手をそろえるが、特徴は対照的。昌平高は、プロ内定選手を4人も抱える。小柄な選手が多いが、技巧派揃い。選手が近い距離で連係を取り、じっくりとパスワークで相手を翻ろうしながらゴールへ迫る。一方の京都橘もJ内定選手を擁する注目チーム。大会屈指のツートップが魅力だ。素早い攻守の切り替えでボールを奪い、前線へボールを集めて素早くゴールを目指す。
昌平高は、ラストプレーで同点弾を奪ってPK戦で辛勝
両チームは、2020年12月31日の1回戦を同じ会場で行ったが、勝ち上がりも対照的だった。先に試合を行ったのは、昌平高。大苦戦だった。連係攻撃の起点を、相手の高川学園高校(山口)の積極的なサイド封鎖によって潰され、得意のプレーを披露できなかった。立ち上がりに相手FKのクリアをミスして失点。後半に追加点を奪われ、万事休すと思われたが、猛反撃。プレースピードを上げて攻撃時間を増やすと、相手のパスを奪ったMF須藤直輝(3年、鹿島に加入内定)がドリブルでゴール前へ持ち込み、ラストパスを受けたMF篠田翼(1年)が1点を返したのは、後半終了間際の80分。そしてアディショナルタイムの80+5分、須藤のドリブルで得た「審判にラスト(プレー)と言われた」(須藤)FKから、MF篠田大輝(2年)がヘディングシュートを決めて同点。
ゴールと同時に笛が鳴ると、まだPK戦を残した状況にも関わらず、複数の選手が落涙。その一人である須藤は「頭が真っ白になって、何も考えられず、気付いたら泣いていた。諦めてはいませんでしたけど、心の奥底に『本当に、オレらの選手権が終わりだ……』という気持ちがあって、そこが一気に晴れたので安心して泣いてしまいました」と話した。PK戦は、9人目までもつれたが、最後は8-7で競り勝った。
試合中に落涙するプレッシャーからの解放で本領発揮なるか
昌平高が、プロ内定4人を抱える注目チームとして、初戦で負けられないプレッシャーを強く感じていたことは、間違いない。須藤のドリブル、FW小見洋太(3年、新潟に加入内定)の抜け出し、MF小川優介(3年、鹿島に加入内定)のターンや相手の間をすり抜けるドリブル、MF柴圭汰(3年、福島に加入内定)の攻撃参加など、これまでに見せていたチームの武器であり個性の大部分が消えていた試合だった。本来はボランチの小川を左サイドに置き、調子が良かったために中央に配置されたMF平原隆規(2年)が連係に絡んでいけない姿も見られた。
藤島崇之監督は「この学びから自分たちがどう進むかが重要。(チームの特長を発揮した)回数は少なかったですけど、結果的には、やってきたこと(個性の連係)で破れたのは良かった。あと(の課題)は回数を増やす、質を高めるというところ。今日は、彼(平原)が一番苦しんでいましたけど、これで爆発すると思っています」と苦境を潜り抜けたことで、プレッシャーから解放されることに期待をかけた。交代カードとなっている篠田兄弟の活躍も、次戦以降の終盤勝負に自信を持てる要因となる。全国初戦という最も飲み込まれやすい試合で九死に一生を得て、次戦で本領発揮となるか注目される。
京都橘は初戦で6得点、被シュートなしの大勝
一方の京都橘高は、6-0で松本国際高校に大勝した。被シュート数もゼロに抑える強い勝ち方で2回戦に駒を進めた。この数年も上位候補に名前が挙がっていたが、4年連続で初戦敗退。米澤一成監督は「先のことを考え過ぎて勝てなかった年もありましたし、一戦目だけと思って勝てなかった年もあったので、初出場のつもりで、この一戦にかけるという気持ちでやって来ましたし、入り方を積極的に前に向かってやろうと、送り出しました」と一戦必勝の姿勢を強調して試合に臨んだことを明かした。
西野&木原のツートップは、大会屈指の破壊力
試合では前半10分に右コーナーキックからDF金沢一矢(3年)がヘディングシュートを決めて早々に先制。さらに前半35分、高精度のキックを誇る左利きのMF中川樹(3年)のクロスをFW木原励(2年)が頭で決めて追加点。後半は、前がかりになった相手から、容赦なくゴールを奪い続けた。
大会屈指の破壊力を誇るFW西野太陽(3年、徳島に加入内定)と木原のツートップが前線で起点となった。2人は、ともに身長180センチとサイズがあり、相手の背後に抜けるスピードも兼備。西野は徳島のジュニアユース、木原はC大阪U-15の出身で、技術もある。西野は、チームの3点目を右足、4点目を左足のミドルシュートで決めた。松本国際の勝沢勝監督は「あの2人を抑えられなかったら、いっぱい点数を取られるだろうと思っていました。攻撃陣の個の能力の違いを見せつけられたゲームでした。(相手は)前に蹴ったボールが必ず収まる。ちょっと、今までに味わったことのないレベル」と悔しさをにじませながらも、素直に相手の力量を称えた。
サイズの優位性を生かすセットプレーも武器
さらに、この試合では3バックの一角を担うDF金沢のロングスローがさく裂した。精度を保ったまま飛距離が出せる、安定したフォームで飛び道具を披露。5点目は、金沢のロングスローがゴール前に抜けたところから生まれた。名前の通り、脅威の「一矢」を放つ。2回戦で対戦する2チームの先発フィールドプレーヤーの平均身長を比較すると、昌平が171.6センチ、京都橘は177.1センチと明らかに差がある。サイズで勝る京都橘は、ロングスローに限らず、セットプレーで優位に立てる。
ただ、気がかりなのは、高精度のキックを誇るMF中川が、1回戦の途中で相手と激しく接触し、そのまま交代となってしまったことだ。米澤監督も「仕方がないのですが、ちょっと様子を見ないと分からないです。彼の(精度の高いプレース)キックがあるので、大きい選手が走り込んでいける。キックが悪ければ、大きい選手がそろっても意味がない。そこは、うちの生命線でもあるかなと思っています」と話すほどで、回復具合が気がかりだ。
京都橘は、夏のリベンジに意欲
2回戦で対戦する昌平高と京都橘高は、夏に親善大会で対戦。このときは、昌平高が完勝したという。しかし、京都橘の米澤監督は「正直、対戦したかった。夏は、かなり差があったので、どれだけ縮められたか。どう勝負できるか。楽しみなゲームになる。それ以降、選手がやること、立ち位置が明確になり、良い刺激になった。やってみないと分かりませんが、差は縮まってきたとは思っています」と雪辱に意欲を示した。
昌平高の主将である須藤と会話を交わしたという西野は「同じ世代のライバル。自分が結果を出して勝ちたい」とプライドを示し、主将の中野晃弥(3年)は「僕たちは快勝して、昌平さんは接戦。メンタル的に、僕らの方が緩みがち。得点数とか気にせず、次の相手に集中して挑みたい」と気持ちを引き締めた。2回戦で実現するにはもったいない好カードを制するのは、果たしてどちらか。
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