東京都が2030年、日本政府が2035年に純ガソリン車/純ディーゼル車(以下純エンジン車)の新車販売禁止の方針を発表した。
純エンジン車オーナーにとって気になるのが、今乗っている純エンジン車にいつまで乗り続けていけるのかということ。
少なくとも日本政府は純エンジン車の走行禁止は今のところ打ち出していないが、2050年に脱炭素社会を実現させるにはCO2を排出する純エンジン車の新車販売だけでなく、使用(走行)もできなくなる可能性がある。新車新規登録から13年が経過する旧車オーナーは特に不安に思っているに違いない。
現状、日本では新車新規登録からガソリン車で13年経った車両は自動車税が15%(軽自動車は20%)の重課制度となる。さらに自動車重量税は13年超が約40%、18年超で約50%それぞれ重くなる。
この13年というのは、自動車平均使用年数からはじき出したもので、2019年では自動車平均使用年数は13.26年となっている(自動車検査登録情報協会)。自動車平均使用年数はわずかだが年々伸びている。
もともと日本は自動車の税金が高い。日本の自家用車ユーザーは例えば240万円のクルマを13年間使用すると、6種類の自動車関連諸税が課せられ、その税負担額は約180万円になると試算されている。
これはアメリカに比べて約30倍、ドイツの約4.8倍、イギリスの約2.2倍もの税金を支払っているという。少なくとも先進国のなかでは日本は世界で最も税負担が大きい。
ただでさえ、税金が高いうえに、13年超のクルマから増税。しかも、あと10年、15年もすると純エンジン車の新車販売禁止……。いったい、自動車ユーザーをなんだと思っているのか。古いクルマを大切に乗り続けることは、新しいクルマに何回も乗り替えるよりも、エコロジーに寄与しているのではないか。
ドイツでは、2030年までに純ガソリン車、純ディーゼル車の新車販売禁止を打ち出しているが、一方では30年以上前に生産されたオリジナル状態を維持しているクルマには、ヒストリックナンバー制度というものがあり、優遇税制が受けられる。すでに50万台を突破し、過去最高となっているという(2020年1月現在)。
いったい13年超のクルマに何の罪があるのか? 日本は自動車大国というのに、伝統と歴史を潰すというのか? 各国の自動車税制と比較しながら、旧車の自動車税制について解説していきたい。
文/岩尾信哉
写真/ベストカー編集部 VW DAIMLER BMW PORSCHE Adobe Stock
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世界一高い日本の自動車の税金! 旧車にはさらに重税!
■自動車税
自動車税は、ハイブリッドカーや電気自動車などを除く13年超の登録車は15%増しとなる。例えば1.6〜2Lエンジン車の自動車税は13年以内ならば年額3万9500円だが、13年を超えると年額4万5400円になり、新しい2.5L車の税額を上まわる。
また軽自動車税は、初度届け出から13年以内であれば年額1万800円(2015年3月31日以前に初年度登録された軽乗用車は年額7200円)だが、13年を超えると1万2900円に跳ね上がる。特に2015年3月31日以前に初年度登録された軽乗用車が13年超になると約80%増しである。
■自動車重量税
車検の時の重量税も登録車が13年以上から18年未満は約40%増し、18年以上が約50%増し、軽自動車も13年以上から18年未満は約20%増し、18年以上が約30%増しとなる。
日本もドイツのようなヒストリックナンバー制度を採用してくれないものか
取れるところから取っておこうという、もどかしい日本の自動車税制だが、世界各国の旧車の税制はどうなっているのか見ていこう。代表例として、日本とは明確な考え方の違いがあるドイツから取り上げる。
ドイツでは「オールドタイマー」と呼ばれる制度が施行され、税金や車検制度上の優遇処置が設定されている。
なかでも製造から30年以上経過した乗用車両については、「Hナンバー」と呼ばれる制度により優遇税制が受けられる。「H」とはドイツ語の“Historisch”、日本語では「歴史的」のHを意味する。
「Hナンバー」の取得には厳格な基準が設定されている。公道を安全に走行が可能であり、環境負荷を抑えるべく触媒を装着するなど、排ガスの抑制への対応が施され、シャシー/エンジンなど、車両各部のチェックを受けて条件をクリアする必要がある。
さらに、「Hナンバー」の取得には高いオリジナル状態を維持していることが要求される。
たとえば、どのような部品を使って修理したのかがわかる整備記録簿の提出が必須となり、塗装も極力純正塗料を使用したことが求められる。また最新のオーディオ類を装着するのも認められないなど、厳しいチェック基準を満たさなければならない。
このように、無改造のオリジナル状態を保ちつつ、文化的価値のあるモデルであることが認められると、車両ナンバーの末尾に「H」が付加された「Hナンバー」が与えられる。
「Hナンバー」を取得すれば、排気量にかかわらず、年間の自動車税が一律に約190ユーロ(1ユーロ:126円で換算して約2万4000円、2020年12月時点)に抑えられ、「Hナンバー」車両は都市ごとに設定されている環境規制にしばられることがない。
さらに「シーズンナンバー」という期間限定のヒストリックカー用ナンバーも用意され、年間の税金を12ヵ月で割り、使用月間分を掛けた額を支払うことで取得でき、「Hナンバー」と「シーズンナンバー」を組み合わせて、使用期間ぶんを税金として支払うこともできる。
ちなみに「Hナンバー」の保有台数が、2020年1月現在で50万台を突破して過去最高の保有台数を記録しているのは、いかにドイツ国民が古いクルマを愛しているかがわかる。
欧米のヒストリックカーの税制処置
ほかの欧州諸国での自動車税に目を転じると、英国では現行販売車両の自動車税の課税基準は、CO2排出量と使用燃料の種類に応じて設定され、CO2排出量が少ないほど税金は安く、排出量100g以下は免税となっている。
一方、初年登録から40年以上経過した自家用車両は自動車税および車検(車両登録)が免除となる。
フランスではCO2排出量により環境規制が厳しくなる傾向はあるとはいえ、自動車税に関しては、主に排気量を基準に課税する「課税馬力」を採用。基本的には車齢に関係なく課税され、ヒストリックカー(含むクラシックカー)のくくりは存在しない。
一方、新車に比べて旧い車両は登録時にかかる費用が安くなり、10年落ちの車両であれば新車の半額程度になるようだ。
2年に一度の車検が必要とされ、費用は新旧車ともに50ユーロ以下(約6300円)。25年以上前のクルマに対しては、保有台数が多ければ多いほど割安になる。またナンバープレートとは別に、フロントガラスに車検合格のステッカーを貼っておかなければならない。
ほかの欧州諸国でも、イタリアでは自動車税は燃費基準によって定められ、20年以上経過した車両は減税対象となり、30年以上で免除となるなど、総じて欧州では国によって違いはあれど、製造からおよそ20年以上経過した車両は、現状では自動車税が緩和される傾向にある。
一方、米国では1994年以降に義務付けられた環境保護庁(EPA)が定める排ガス規制が設定されているが、製造から21年以上経過した車両は対象外で、輸入車を含む米国内で販売される車両が対象となる。
アメリカは個々の州による規制もあり、独自の厳しい排ガス規制を実施していることで知られるカリフォルニア州でも、1975年以前に製造された車両は対象外となる。
アメリカには製造から25年以上経過した車両(こちらも輸入車を含むのは欧州や日本から持ち込まれる車両が多いためだろう)の保安基準に対する優遇制度、いわゆる「25年ルール」があり、細かいチェックが免除され、右ハンドル車もクラッシュテストなどなしに米国内で販売/登録が可能になる。
東京都でも1945(昭和20)年以前に製造された、いわゆる“クラシックカーは、所有者の申請により自動車税の減免が受けられる「ヴィンテージカー減免」を実施しているのだが、ドイツのヒストリックカーナンバー制度の規模とはほど遠い。
納期限までに申請することにより、自動車税「種別割」の重課分の減免を受けることができる。なお、ヴィンテージカーの自動車税の減免については年度ごとの申請の必要はないとのこと。
東京都のヴィンテージカー減免制度の詳細は東京都主税局のホームページ
総務省に旧車の税制は今後どうなるのか聞いてみた
さて、今般メディアを騒がせている「2030年~2035年までに純エンジン車の新車販売禁止」の話題についてだが、今後、今所有しているガソリン車が、乗れなくなる日が来るのか?
自動車の中古車の車検制度や税制に関する質問を投げかけようとすれば、ご想像の通り、車検制度については国土交通省の自動車局、税制については総務省と見事な縦割り行政になっている。
ちなみにいわゆる「エコカー減税」については後述するが、2021(令和3)年度政府予算で継続が決まり、2年後の2023年4月まで延長され、新たな燃費規準として2030年度燃費規制が導入されることになった。
ここで旧車オーナーが心配しているのは、旧車の税金がさらに高くなるのか、ということ。税制を扱う総務省に訊ねると「案件として上がってきていない」とコメント。
日本では車検が製造年次の排ガス基準をクリアすれば使用し続けることは周知の通りだが、今後の日本の自動車税の方向性を訊ねても、未検討というか“ほったらかし”といえる状況にあるようだ。
振り返れば、「自動車税のグリーン化税制」の一環として、2019年に「自動車取得税」が名を変えて「環境性能割」としていわゆる“重課税”は生き残ることなった。
エコカー減税は2年延長
ここで、燃費性能に応じて車検時に課せられる自動車税を優遇する「エコカー減税」の改定について概略を触れておこう。
期限については、2021年5月から2年間延長する方針を決定した。現行基準よりも4割程度厳しくなる新たな2030年度燃費基準を採用。新燃費基準の60%を下回るガソリン車やハイブリッド車については、エコカー減税の対象から外すことになった。
加えて、2021年5月以降は電気自動車とプラグインハイブリッド車、燃料電池車、天然ガス自動車は一律で免税措置を受ける一方、ガソリン車とハイブリッド車は、2030年度を目標とする新しい燃費基準の達成度によって減税率が異なる。
具体的には、2016年度実績値に対する燃費改善の達成率が60%に届かないと減税措置を受けられず、逆に20%上回れば1~2回目の車検時の自動車重量税が免税になるとのことだ。
これまで免税対象だったいわゆるクリーンディーゼル車は、2023年度からガソリン車と同じ取り扱いになる。
2021年度は免税を初回の車検に限定。2020年度を目標とする燃費基準を達成している場合には2023年4月まで、そうでない場合は2022年4月まで適用するという。
ちなみに、現状では新車販売車両の7割程度が減税措置の対象になっており、「減免対象車が現状から減少することのないよう配慮した」(総務省、自動車税務担当者)としている
ヒストリックカーが優遇される日は遠い?
日本では車齢が13年を超える所有車では優遇税制など夢の話で、自動車税が10%から13%に増加することで新車への買い換えを促すかのような税制によって、いわば自然淘汰されていく運命にあると言わざるを得ない。
日本の自動車メーカーでは、旧車のレストアや復刻部品の供給を始めている。ホンダのNSXの「リフレッシュプラン」の実施を契機として、近年ではトヨタのスープラやトヨタ2000GT、マツダのNAロードスター、RX-7、日産のスカイラインGT-Rなど、往年の名車を対象とする復刻部品の販売やレストア関連プロジェクトも始動している。
日本でのヒストリックカーを保護するような動きが、欧州の”文化”といえるレベルに達するにはまだまだ時間がかかるだろうが、ドイツレベルとはいかないまでも、少しずつでも政府やメーカーによるヒストリックカーオーナーに対する税制面を含めたサポートが、拡大していくことを願わずにはいられない。
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