米国で長期金利と短期金利が逆転する「逆イールド」が、2007年以来約12年ぶりに発生した。景気後退のシグナルとされ、米国だけでなく、世界の株式市場は乱高下している。米中貿易戦争の行方とも絡み、米国と世界経済の先行きに暗雲が漂ってきた。
長短の金利は、基本的に国債市場の利回りのこと。10年物国債が長期金利の指標、2年物などが短期金利の指標だ。通常、国債は満期までの期間が長いほど、価格変動などのリスクが大きくなるので、投資家はリスクに見合った高い金利を求める(高い金利のものしか買わない)。このため、残りの期間を横軸にしたグラフ(イールドカーブ=利回り曲線)を描くと、普通は緩やかな右肩上がりになる。逆イールドとは、この曲線が逆転することだ。
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FRBのパウエル議長とトランプ大統領(ホワイトハウス公式より)。米国、そして世界経済の行方は
「目先の景気は良くても、将来の景気低迷が心配」
今回、8月14日の米債券市場で10年物国債の利回りが一時、1.57%台と、前日の1.70%程度から約3年ぶりの水準に大幅低下(債券価格は上昇)し、2年物の利回りを下回った。3カ月物と10年物の利回りはすでに逆転していたが、より足元の景気との関連が強い2年物との逆転とあって、米株式市場は直ちに反応し、ダウ工業株30種平均株価は前日より800ドル値下がりし、今年最大の下落幅を記録。ショックは日本にも及び、15日の日経平均株価も前日比249円安と、約半年ぶりの安値を付けた。
逆イールドとは、目先の景気は良くても、将来の景気低迷が心配という市場の心理を反映している。金利は市場の需給で決まるので、他との比較で資金が動く影響はもちろんある。今回、直接には中国やドイツの悪い経済指標が相次いで公表されたこともあって、世界的な「安全資産」とされる米国債に一気に資金が向かい、米10年物国債の利回りが大幅に低下した。とはいえ、すでに拡大が11年目に入った米国景気に陰りが見える中、世界経済の最大のリスク要因である米中貿易戦争の不透明感が強まり、投資マネーが株式市場から国債市場に向かうという大きな流れがある。特に景気後退→金融緩和の連想で、満期までの期間が長い債券に、より金利低下圧力がかかる。逆イールドは景気後退への市場の警戒警報と見なされる所以だ。
過去に起きた「逆イールド」では...
実際、歴史的に逆イールドが発生すると、高い確率で景気後退が訪れている。米ITバブルやリーマン・ショック前の2000年や2005~2007年も逆イールドが起きた。逆イールドになってから平均18カ月程度後に景気が後退しているというデータもあり、米大手銀の最近の市場調査で、投資家の3分の1が「1年以内の景気後退」を予測しているという。
ちなみに日本では日銀が長短金利操作で短期金利をマイナス0.1%、長期金利を0%程度におさえる政策を実施しているが、このコントロールの対象でない残存期間が5~7年の国債が買われ、2018年末に2年債と7年債で逆イールドが起き、今年に入って2年債と5年債の利回りも逆転している。ただ、日銀の異次元緩和に伴う国債の大量購入により需給が逼迫していることが主因で、米国のような景気後退の兆しという見方は少ないようだ。
いずれにせよ、今後の見通しは、ここにきて一段と不透明感を増している。米中貿易戦争は23日に中国が米国からの年間輸入額750億ドル(約8兆円)分に5~10%の追加関税をかけると発表、米トランプ大統領は、即座に、中国からの輸入額2500億ドル分に課している制裁関税を25%から30%に引き上げると発表。逆イールド後、やや持ち直したダウ工業株はこのフイ、623ドル安で引けた。この日の債券市場でも、収まっていた逆イールドが再び発生した。
米連邦準備制度理事会(FRB)のパウエル議長は7月に利下げに続き9月にも追加利下げを実施することを示唆しているが、貿易摩擦による景気の減速に金融政策で対応するのは限界があるとも発言しており、トランプ大統領は23日、「本人が辞任を望むのなら、止めない」と述べ、自身が要求する大胆な利下げに応じないパウエル議長に不満をあらわにしている。
貿易戦争と金融政策、さらにFRB議長の人事まで絡んで、米国経済と世界経済の視界は簡単に開けそうにない。
2019-08-31 05:00:00Z
https://www.j-cast.com/2019/08/31366364.html?p=all
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