自動車の型式指定申請における不正が産業界に波紋を広げている。ダイハツ工業に端を発した事案は、トヨタ自動車やホンダ、マツダなど国内乗用車メーカー5社に広がり、計38車種で不正が確認された。国は現行生産車で不正があった3社に対象車種の出荷停止を指示した。サプライヤー各社は事業への影響など状況確認を急ぐ。中国など海外勢との開発競争が激化する中、制度のあり方を指摘する声も上がる。(特別取材班)
「モノづくりの難しさを痛感した。トヨタでもそうなってしまう原因が何か。究明が必要だと感じた」。中部地方の自動車部品メーカーのトップはこう受け止める。不正が発覚した対象車種の出荷停止については「国内は一時的な影響だけだと思う。輸出や現地生産など間接的に影響を及ぼす可能性が高い」とみる。
関東の部品メーカー幹部は「驚きとともに重く受け止めている。コロナ禍や半導体の問題が緩和され、増産へ向けた明るい動きが広まってきた中、見通しを不透明にする新たな要因になる。生産停止や出荷停止が長引けば影響は出るだろう」と気をもむ。西日本の部品メーカー幹部も「昨日、(完成車メーカーから)出荷・生産を停止すると説明があった。再開については見通せず生産計画も白紙だという。停止がどのぐらいの期間になるかが知りたい」と不安を示す。
今回の不正問題では安全性に問題がなかったものの、国が定めたルールに逸脱していたことが問題となった。背景には開発競争の激化による業務量の増加や工程の煩雑化などが指摘される。「(国内市場では販売面から)短期の開発が求められている。海外メーカーのように、じっくり開発して長く売れる車を作らなければならないだろう」(西日本のサプライヤーの幹部)。
首都圏の部品メーカー幹部は「中国の自動車メーカーと仕事をすると、とにかくスピードが速い。開発期間が短く品質が担保されるような折衷案ができるようOEM(完成車メーカー)、政府を含め取り組む必要がある」と指摘する。
日本自動車工業会(自工会)は4日、会員企業での不正発覚を受けて「お客さまの安全・安心にかかわる自動車製造の根幹の問題として、大変重く受け止める」とした上で「不正問題の解決を徹底的に推進していく」とのコメントを発表した。車メーカーはサプライヤーからの信頼を回復する意味でも、実効性のある再発防止策が求められる。
私はこう見る 『産業の競争力目線』も必要 ナカニシ自動車産業リサーチ代表アナリトス・中西孝樹氏
ルールを守る会社から車を買うという消費者の信頼を裏切った点で、車メーカーは信頼回復に努めなければならない。今回の事案は組織ぐるみの隠蔽(いんぺい)など悪質さはなく、型式認定取り消しには現時点でならないだろう。出荷停止車種は限定的で経済への影響はあまりないと見ている。だからといって許されない。認証制度が悪いというロジックで考えるのは間違い。規定より厳しい条件で検査したデータだから代用しても良いという、技術者に都合の良い論理が(3日の車メーカーの)会見で出たが、そうではない。例えば欧州は外部の目を入れ、メーカーに判断を委ねることは排除している。認証制度はユーザー目線だけでなく「産業の競争力目線」も入れて、時代に即したものに進化させていくことも必要だ。(談)
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