Pages

Monday, September 5, 2022

生産性向上で社員の生きがい追求 静岡部品会社の挑戦|日経BizGate - 日経BizGate

bolasisoccer.blogspot.com

 6月下旬に東京国際展示場(東京ビッグサイト)で開催された「ものづくりAI/IoT展」。広大な施設の入り口に近くに「REVOX」と書かれたひときわ目立つ青い展示スペースがあった。プラスチック部品製造のプラポート(静岡市)が開発した人工知能(AI)を活用した見積書作成システムを全国の金属加工部品メーカーに売り込むための試みだった。1000枚用意したチラシはすぐになくなり、社長の宮季高正氏らはブースを訪れた約200社の関係者との名刺交換に忙殺された。

 多様な業種に機械部品を提供「強みはスピード」

 プラポートの社員は85人。工場などで使用する産業機械のプラスチック部品を月間に約1万種類製造している。同社製の部品は全国各地の食品、医療、自動車関連メーカーなど年間3000社に使われている。最も取引の多い企業でも売上高全体の3%しかなく、特定の取引先からの注文に依存しないようになっている。

 宮季氏は自社の特長について「最大の強みはスピード。業界トップを目指している」と断言する。部品の注文から納入までは2~3週間かかるのが一般的だが、同社の場合、金曜日に注文を受けて翌週の月曜日には製品が届く仕組みを目指している。納期が圧倒的に短いうえに週末でも対応するので、多少価格が高くても企業からの注文は止まることがない。こうした短納期を実現するため、宮季氏は社長に就任した2020年から「人と技術の両面の改革に集中してきた」という。

 注文書を自動で読み取り

 技術面ではまず、顧客からの注文書を読み取り、データ化したものを受発注システムに自動的に登録するRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)を20年に導入した。22年からは製品を加工するCAD/CAM(コンピューターによる設計・製造)のプログラムの一部をAIで作る仕組みを構築した。このほか、工場内の個々の設備の稼働率をリアルタイムで把握し、最適な設備稼働にもつなげて1時間あたりの生産量を最適化している。部品の材料は需要予想にもとづいて調達し、材料ごとにQRコードを貼ってリアルタイムで在庫金額がわかるようにした。この結果、無駄な資材の在庫が大幅に減ってキャッシュフローが改善した。

 同時に進めたのが「人などのソフト面の改革」(宮季氏)だ。管理職とは別に技術を極めたい社員向けの「技能職コース」を21年に新設した。従業員の働く意欲を高めるため、食堂はしゃれたカフェ風にデザインを変更。事務所も「『アップルストア』のようなクールな内装」(宮季氏)を目指した。社員であることに誇りを持ってもらうため、社外の人と会うことが少ない工場の従業員を含む全従業員の名刺を作った。

 創業以来の事業を廃止

 事業の「選択と集中」も進めた。「プレート」と呼ぶ職人が部品を溶接・加工する部門は利益率が低いため廃止した。創業以来手掛けてきた業務をやめることには社内からの反発が大きく、機械加工部門への異動を望まない従業員10人は会社を去った。土日祝日も工場を稼働させるために導入したシフト制に難色を示した従業員を含めて会社全体の15%が退職した。

 しかし、「経営理念に共感する従業員だけが残ったので一致団結できた」(宮季氏)。シフト制の導入後も有給消化率は9割を超える。技術者は機械加工に集中する一方で、複数の機械を同時に動かせる多能工の従業員を評価して賃金を引き上げた。

 プロカメラマンからの転身

 技術と人材を一体とする経営改革にまい進する宮季氏だが、20歳代はプロのカメラマンとしてファッション雑誌やカタログの写真を撮影していた。しかし、将来の生活設計に不安を感じて、加賀電子のグループ会社に就職。営業と自社製品の販売促進を担当していたころに知り合った妻の実家が営んでいたのがプラポートだった。10年に入社した当時は従業員30人くらいで、リーマン・ショック後の景気低迷の影響で人員を削減中だった。「娘婿として入社した自分への(社員の)視線は冷ややかだった」と当時を振り返る。

 入社後、工場内で加工後に残ったプラスチックの端材が多くあることに気づいた。これらを顧客が求める大きさにして販売するウェブサイト「カットプラドットコム」を立ち上げたところ引き合いが急増した。さらに販売先の企業をより付加価値の高い加工部品へと誘導する取り組みを進めた結果、現在の同社の顧客企業の7割以上を占めるまで事業は成長。従業員は一時100人まで増えた。

 順調に事業を拡大した宮季氏だったが、20年に事業を承継する際には悩んだという。「どの部品も他社の図面に基づいており、当社のオリジナル製品ではない。どこの会社でも作れる部品を作ることに意義はあるのか」と自問していた。

 思い悩んだ末にグロービス経営大学院に入学。宮季氏はロジカルシンキングを学ぶ中で「会社の使命は雇用。社員の働く場を生きがいとやりがいの持てる場にしたい」と思うに至り、生産性の向上を通じて「『感動の付加価値』を生んで社員と会社の未来に還元することが存在意義だ」と結論付けた。事業承継後は経営理念を「生きがいと感動の創造」と定めて、社風などすべてを変えることにした。経営理念を実現する源泉として「1人あたり利益」と「1時間あたり利益」の向上を目標に掲げ、21年12月から改革を加速した。21年12月~22年5月の1人あたり利益は月間平均で改革前より7%、1時間あたり利益は8%それぞれ増えた。

 ただ、生産性は高まりつつある現在でも宮季氏は危機感を抱いている。全国の中小部品メーカーは、「川上」の大手機械メーカーから地域の部品商社を通じて注文を受けている。しかし、近年は大手向けの規格品を作ってきた部品メーカーが多品種少量加工にも乗り出している。AIによって国内の中小企業を選別する動きも広がっており、「中小製造業はシェアも主体性もますます奪われる」と懸念している。

 モノからサービスに転換

 こうした経営環境の変化に対して、同社の対策は2つある。1つ目はこれまで以上に納品のスピードを高めることでAIにも選ばれる部品メーカーになることだ。

 2つ目の戦略が「モノ売りからサービス会社への転換」(宮季氏)だ。冒頭に紹介したREVOXがこれにあたる。REVOXはプラポートが開発した「SellBOT(セルボット)」と呼ぶ金属加工業向け見積もり査定システムを外販するために設立した子会社である。セルボットは人間が経験と勘で手がけてきた部品加工の見積もり作業をAIによって効率化できるサービスだ。部品加工の現場ではいまだに部品商社とファクスでやりとりするのが一般的で電子化が進んでいない。セルボットはクラウド上で受注したい部品の図面に書かれた材質などの文字までAIが読み取り、人間が部品の大きさの情報だけを入力すると数秒で見積金額が出せる。通常なら3時間ほどかかる見積もり作業を10分程度に短縮できる。

 材料の原価や工程にかかる時間などは、過去に製造した類似製品の見積もりも加味して算出する。変動の大きい材料費をリアルタイムで更新するため、アルミや銅など非鉄金属専門商社の白銅と提携し、価格を自動補正する機能を備えた。東京ビッグサイトでの展示の反響は大きく、全国30社と導入に向けた商談が始まっているという。

 従業員が100人に満たない規模の企業が先駆的なサービスを開発できた理由について、宮季氏は「世の中の様々な条件が整ってきて、自分たちが欲しいものが作れる時代になった」と語る。セルボットの開発にあたっては誰もが知る大手システム会社の有能な技術者が副業人材として参画した。大手企業が従業員の副業を解禁し始めたことが追い風となったわけだ。「ジョブ型雇用」の意識が高まったことで、会社の規模や知名度ではなく仕事の内容で転職する人も増えており、同社に大手センサーグループから転職した社員もいるという。

 「ホワイト企業」に認定

 生産性を高めたことで生まれた余裕を同社は労働環境の改善に還元し、静岡県内の製造業で初めて日本次世代企業普及機構(大阪市)の「ホワイト企業認定」を受けた。残業の少なさや高い有給消化率が求められる同認定を取得したことで「週に1人くらいは面接に来るようになった」(宮季氏)と採用面でもプラスに働いた。

 製造業の競争力を高める上で機械やシステムばかりが注目されがちだが、宮季氏は「最終的には『人』が(競争力を)決める。変化に対応できる人材を中心に(事業の)選択と集中を進めたい」と新たな事業展開に意欲を見せる。

 宮季氏が心酔するパナソニック創業者の松下幸之助氏の有名な逸話がある。松下幸之助氏は不景気にも対応できる「ダム式経営」の必要性を唱えた。ある講演で経営の方法を聞かれて「ダムを作ろうと強く思わんといかん」と答えた。会場には失笑が広がったが、講演を聴いていた京セラ創業者の稲盛和夫氏は「自分には強烈な祈りを込めるほどの思いはなかった」と衝撃を受け、京セラの成長につなげたという。

 プロのカメラマンとして成功するという「思い」を実現できなかった宮季氏はいま、静岡という縁もゆかりもなかった場所で「生産性の向上を通じて社員の生きがいを追求する」という目標に向かっている。その「思い」は着実に実を結びつつある。

 生産性の向上を通じて得られた利益を社員に還元することを目指すプラポートのように意欲ある企業が、本業により一層注力できる仕組み作りをアメリカン・エキスプレスのビジネス・カードはサポートする。

 ビジネス・カードを導入することで、領収書の仕分けや振り込み作業を省けるので、経費精算の時間や人的コストの節約につながる。また、締め日と引き落とし日が固定されるカード払いにすることで、キャッシュアウトを後倒しにできるので、キャッシュフローの改善にもつながる点もメリットとなる。

 この結果、長期的な資金計画が立てやすくなり、事業の効率化や生産性向上に向けた投資もしやすくなるのだ。生産性の向上を目指す際の心強いパートナーになるとも言えるだろう。

 アメリカン・エキスプレスのビジネス・カードの詳細はこちら

Adblock test (Why?)


からの記事と詳細 ( 生産性向上で社員の生きがい追求 静岡部品会社の挑戦|日経BizGate - 日経BizGate )
https://bizgate.nikkei.co.jp/article/DGXZQOCD2669Y026072022000000

No comments:

Post a Comment