“28m、100kg”の日本版ビッグユニ完成
松下さんは、これを日本でやりたいと思った。 「日本代表を表現するモニュメントを掲げることで、みんなが一丸になって勝利をつかみにいくというストーリーが生まれる。ユニフォームなら、それを着てプレーする人と応援する人、さらにはユニフォームの作り手が気持ちをひとつにすることができますから」 フランス大会の翌年、アディダスが新しいユニフォームサプライヤーになると、松下さんは早速、同社にビッグユニフォームのアイデアを持ちかけた。それはワールドカップ開催に向けて、機運を盛り上げようとしていたアディダスに歓迎され、縦横28m、重さおよそ100kgの日本版ビッグユニフォームが完成した。 それは02年3月のキリンチャレンジカップ、大阪・長居陸上競技場でのウクライナ戦で“デビュー”を飾る。 ワイヤーによって吊り上げたフランスとは異なり、日本のビッグユニフォームはサポーターたちの手によってスタンドに広げられる。長居では慣れないせいか時間がかかったが、回数を重ねるたびに伝統芸能のように美しく広がり、そして消えるようになった。 「サポーターのみんなにはどう思われているんだろう」 松下さんは2度だけ、ゴール裏ではなくメーンスタンド側とバックスタンド側からビッグユニフォームが上がるさまを見ていたことがあるという。そのとき客席から聞こえてきたのは「見て見て! 上がってる!」と人々の喜ぶ声だったという。 長居以来、ビッグユニフォームは代表戦の名物になり、多くのサポーターが見たい、触れたいと願うものになった。 ビッグユニフォームは間近で見ると、無数のメッセージで埋め尽くされていることがわかる。試合前に寄せ書きをしてもらい、ゴール裏で広げるときも、下にいるサポーターが代表チームへの熱い思いを書き込んでいるからだ。 チームとともに国内を転戦し、全国各地のサポーターがメッセージを寄せる。そう、あの巨大なジャージには、日本中の人々の思いが込められているのだ。 試合を重ねて汚れが目立ち始めると、松下さんは仲間と一緒に巨大なビッグユニフォームをじゃぶじゃぶと洗濯する。巨大な布地は洗うのも大変だが、干すのも一苦労。それでもサポーターの思いがこもった大きなジャージを磨き続けてきた。
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