東日本大震災から10年を迎えた直後の2021年4月、菅政権は東京電力福島第一原発(福島県大熊町、双葉町)の汚染水を浄化処理した後の水を、2年後をめどに海洋放出する方針を決めた。新たな風評被害を懸念する地元の反対を押し切っての判断で、過去に政府や東電が漁業関係者と文書で交わした「約束」を裏切る行為でもあった。市民側では新型コロナウイルスの影響で往来に制約がある中、インターネットを活用した反対の署名集めの動きが起きている。 (市川千晴、中根政人)
◆ネットで署名呼び掛け
震災で被災した宮城、福島両県の3つの生活協同組合が19年に合併して運営されているみやぎ生協(仙台市)の副理事長で、処理水海洋放出の反対署名集めに取り組んでいる野中俊吉さん(62)は「手に負えないから海に流してしまえ、というのは責任放棄だ。福島の問題に矮小化するのでなく、国民全体に訴える必要がある」と語る。
活動は、みやぎ生協など4団体が呼び掛けて21年6月から始まった。野中さんが講師となり、全国の生協でオンライン学習会を計5回開催。3000筆近いオンライン署名が集まっている。同時に行っている用紙署名も1400筆近い。野中さんは「年内に政府と東電に署名を提出したい」と意気込む。
◆反対の声は無視
福島第一原発の処理水に関して政府と東電は15年8月、それぞれ福島県漁業協同組合連合会に対し「関係者の理解なしには、いかなる処分も行わない」と書面で回答。処分方法を決める前に、地元漁業者の同意を丁寧に得るかのような姿勢を示した。
一方、政府の小委員会は20年2月、海洋や大気への放出が現実的な選択肢であり、海洋放出の方が「確実に実施できる」とする報告書を公表した。
全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長は21年4月7日、官邸で菅義偉首相と面会した際、海洋放出に反対の意思を伝えたが、政府は6日後の4月13日、関係閣僚会議で海洋放出方針を正式決定した。
野中さんは「反対の声を確認しておきながら、卑劣なやり方にあぜんとした」と憤る。
◆世論でストップを
政府は放射性物質トリチウムを含む処理水を海に流しても、人体や環境への有害な影響はないとする。だが、中国や韓国は環境への影響などを挙げ批判を繰り返す。首相は国会答弁で、処理水の海洋放出について「安全性に問題がないことを理解してもらえるよう、引き続き努力したい」と強調するものの、メッセージが国内外へ十分に伝わっているとは言い難い。
原発政策全般に関しても、政府は「依存度を低減させる」としながら、電源構成上の重要性は維持したまま。新規制基準に適合した原発を「地元の理解」に基づき再稼働させる方針を継続している。一方、世界最悪レベルとなった原発事故の収束作業は終わりが見えない。
野中さんは処理水を巡る政府の一連の対応について「乱暴で、一般的な国民の感覚で取り組んでいない」と指摘。「反対の世論が高まれば、海洋放出しない方向で決着する可能性だってある」と力を込める。
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