ガー・ピー、ヒョロヒョロ。パソコンのスピーカーからこの音が聞こえてくると、これで無事に原稿を送ることができると、心の底からホッとしたものだ。サッカーを報道するために必要なのは、最先端の機材とそれを使いこなす知識と技術。終わることのない追いかけっこなのである。進化の波に乗り遅れるな! 【画像】貴重!各年代の記者席とパソコン事情
■激変したコロナ時代のサッカー報道
ときどき、自分自身に「よくやってきたな」と声をかけてやりたくなる。 私は1951年生まれ。ことし70歳になる。この仕事を始めたのは、まだ大学に籍を置いていた1973年4月のことだったから、もう半世紀近く前のことになる。当時の仕事方法と現在を比較してみれば、驚くほどの変化があったことは、容易にわかる。言ってみれば洞穴暮らしの「石器時代」から、もうすぐ自動車が空を飛ぼうかという「科学技術」の時代まで、ずっと「サッカーを報道する」というひとつの仕事をして生きてきたことになるのである。 私が仕事を始めたころには、原稿を書くのも雑誌の編集作業もすべて手作業だった。原稿依頼も完成した原稿の受け取りも、すべて編集者が筆者の自宅や仕事場に出向いて打ち合わせし、直接会って受け取った。原稿は、原稿用紙に1字1字書かれたものだった。いまはメールで原稿依頼がきて、パソコンで原稿を書き、仕上がったらメールで原稿を送り、編集者の顔も見ないまま仕事が終わってしまうことも珍しくない。 コロナ禍の昨年来の大きな変化は、「WEB会議」や「オンライン記者会見」である。会議は会議室に集まって行うもの、記者会見は会見室で「ひな壇」の上に座った監督と丁々発止で質疑応答をするものと、わずか1年少し前までは「石器時代」から変わらない決めごとだったのに、いきなりZoomでの会議や会見になった。
■人と会わずにJリーグ取材
昨年、4カ月もの中断からJリーグが再開されて以来、私たちは、選手や監督たちをスタンドの記者席からは見ても、直接顔と顔を合わせて話すことなど皆無になってしまった。スタジアムにつけばまず検温、2週間分の体温や体調の報告用紙を提出し、手指を消毒してから報道受け付けとなる。事前にJリーグから送られてきた入場用のQRコードをタブレットのカメラにかざして受け付けが完了し、首からぶらさげるADカード(おそらく、厳重に消毒されているはずだ)を受け取ると、そのまま記者席に向かうのである。 以前のように印刷されたメンバー表が配布されることもない。席についてパソコンの電源を入れ、インターネットに接続して、Jリーグのメディア用データサイトからメンバー表をダウンロードする。そして画面を見ながらノートに書き写していく。 ノートは、数少ない「石器時代」からまったく変わらないもののひとつだ。仲間の記者のなかには、タブレットにペン書きしている者もいる。こうすると、何年分ものノートを持ち歩けるのだというが、私は相変わらずコクヨのB5判のCampusノートを愛用している。筆記具も、相変わらずボールペンである。 試合が終わると、ノートとボールペンの「石器時代」から、ふたたび「科学技術の時代」に戻る。メールで受け取ったURLから記者会見用のZoomにアクセスし、しばらく待つとビジターチームの監督がやってきて会見が始まるのである。 Zoomだからといって監督が話す内容が変わるわけではない。しかし表情やしぐさなどから監督の心理を推測するのは難しいし、直接的なコミュニケーションを取れないのは、やはり寂しい。とは言っても、寂しいのは取材する私たちだけかもしれない。監督たちは、ときにいら立たしい質問をする記者たちの眼前にひとりでさらされる形の記者会見より、現在の環境を喜んでいるかもしれない。
からの記事と詳細 ( 「サッカー記者の50年」(1)「ZOOMとノート」と「12時間の重労働」(サッカー批評Web) - Yahoo!ニュース - Yahoo!ニュース )
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