「カミュの『ペスト』みたいだと思わないか?」
近頃は知人とこんな会話ばかりしている。原因はもちろんコロナウイルスだ。世界中を覆い尽くす謎のウイルスと、増加する一方の痛ましい犠牲者。感覚的には、むしろSF映画の悪夢が現実になったような感覚に近い。
気分転換をしようにも外出はNGということで、日本代表やJリーグ、海外サッカーの過去の名勝負をひたすら眺めて過ごしている。
だが、ものは考えようだ。目先の情報につい踊らされがちな僕たちにとって、自宅での巣ごもりはサッカーの歴史を改めてじっくり紐解くチャンスにもなる。
日本代表に限っても、過去の試合を振り返るのは味わい深いものがある。
ドーハの悲劇からW杯フランス大会を経て、2002年の日韓大会へ。さらには川口能活が神がかり的なセービングを見せたヨルダン戦(2004年アジア大会)、本田圭佑と遠藤保仁のFK、岡崎慎司のゴールで相手を突き放したW杯南ア大会のデンマーク戦、そしてロシア大会のセネガル戦やベルギー戦等々。モニターに映像が映し出されるたびに、懐かしい記憶とスタジアムの興奮、取材を共にした同僚の顔がよみがえる。
世間一般の注目度こそ高くなくとも、個人的に忘れられない試合もある。
真っ先に思い出されるのは、オシム時代のガーナ戦(2006年キリンチャレンジカップ)と、ザッケローニの下で臨んだイタリア戦(2013年ブラジルコンフェデ杯)だ。
これら2試合は選手の顔ぶれも異なれば、チームが置かれた状況や時代背景も異なる。結果的には0-1、3-4でどちらも惜敗するなど後味も苦かった。
日本がスペースを有効利用した珍しい試合。
にもかかわらず脳裏に鮮明に焼き付いているのは、どちらも日本代表のスペースの使い方に一石を投じる内容になったからだ。
ガーナ戦に臨んだオシムは3-4-3の布陣を敷いた上で、スイーパーに阿部勇樹を起用。リスクを冒しながらラインを大胆に押し上げ、サイドからチャンスメイクを行っていくことで、日本代表が戦術的にも世界の強豪に対抗できる可能性を示唆した。
イタリア戦の衝撃も大きかった。
ザッケローニ時代の日本代表は、ともすればゴール前に選手が集まりすぎ、得点のチャンスを自ら潰してしまう悪癖が幾度となく指摘されていた。いわゆる「香川真司と本田圭佑の共存問題」が盛んに論じられたのは記憶に新しい。
ところがイタリア戦では、各選手がペナルティエリアの周辺で適切な距離をキープしたためセカンドボールもしっかり拾い続け、波状攻撃を展開することができた。
これはある意味、イタリア代表を苦しめたこと以上に意義深かったように思う。今風の戦術用語を使えば、ジョゼップ・グアルディオラが説く「ポジショナルプレー」を実践し、日本代表が自らの宿痾を解消した珍しい瞬間でもあったからだ。
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May 03, 2020 at 10:01AM
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サッカーは危機管理の知恵が満載だ。「社会的なポジショナルプレー」を。(田邊雅之) - Number Web - ナンバー
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