「世にない新しいものを提案し、世に新しい風を吹き込み、豊かな社会作りに貢献する」という経営理念のもと、独創的な発想と独自の技術に基づく新しい機械構造や部品を提案し続けている大手機械要素部品メーカーのTHK。その名を世界に広く知らしめたのは、1972年に発売した「直線運動案内(Linear Motion Guide-LMガイド)」という製品である。
それ以前は非常に困難とされてきた機械の直線運動部の「ころがり化」を独自の技術により実現したことで、メカトロニクス機器の高精度化、高速化、省力化など、機械性能を飛躍的に向上させたのだ。例えば、THKのLMガイドを取り付けた工作機械や産業用ロボットは、サブミクロン単位の超精密な作業を可能とする。
こうしたTHKのLMガイドのメリットは、今では製造業を中心とした幅広い業界で認知されており、工作機械や半導体・液晶製造装置、産業用ロボットのみならず、鉄道車両、福祉車両、医療用機器などでも用途を拡大中だ。グローバルで圧倒的高シェアを占め、さまざまな領域における「動き」を支える存在となっている。
リアルとデジタルを融合したビジネススタイル変革へ
業界内で優位なポジションを築くTHKだが、単純に良い製品を提供し続けるだけでは、今後の持続的成長が次第に困難になっていくという危惧も抱いている。製造業が手掛ける製品のライフサイクルが短期化するとともに、さまざまなニーズに応えるマスカスタマイゼーションも重要になっている。また、“第4次産業革命”に象徴されるデジタル変革の動きに伴い、製造業においてもデータドリブンの経営や生産体制を確立することも急務となっている。
そうした中でTHKが、LMガイドに代表される既存のコンポーネント部品事業のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進していくための新たな施策として打ち出したのが「Omni THK」というクラウドベースのソフトウェア基盤である。顧客とのコミュニケーションを支えるプラットフォームであり、特に既存顧客とのエンゲージメントを高めていくことを狙いとする。これまで主に対面で行われていた商談プロセスにデジタル技術を導入することで、顧客の利便性を高めるとともに、顧客とTHK双方の業務を効率化し、さらにはデータ活用による付加価値を創出していくのである。
THK 取締役専務執行役員であり産業機器統括本部 統括本部長を務める寺町崇史氏は、「全社を挙げてDXに取り組んでいくという経営方針を固めたのは2016年ごろのことです。新規分野開拓とグローバル展開に加え、ビジネススタイル変革を新たな重点テーマとして掲げ『リアル(対面)とデジタル(非対面)の融合』に向けた取り組みを開始しました。われわれの主力製品であるLMガイドは、ロボット化や自動化と非常に親和性が高く、既存のお客さまはもとより新規のお客さまに対しても販売機会を増やしていきたいという思いがあり、これがOmni THKの発想に結び付きました」と語る。
当然のことながら、Omni THKは、既に世に数多くみられる一般的なECサイトとは全く質の違ったものとなる。
THK 執行役員 IOTイノベーション本部 本部長を務める坂本卓哉氏は、「そもそもLMガイドのような機械要素部品は、制御機器と比べても特殊率が非常に高く、カスタム対応が前提となる世界です。人から人へ情報を伝達しなければならないプロセスが膨大に存在し、これが業務の効率化を妨げる最大の要因となっていました。この課題を解決すべくわれわれが注目したのが、『リアルとデジタルの融合』というアプローチなのです」と強調する。
Omni THKが提供する4つの機能
Omni THKは2019年7月から全面的なサービス提供を開始している。主な機能は大きく分けて4つある。
1つ目は「Fast Delivery」。顧客が在庫、納期、仕様の確認に多大な工数をかけている状況を解消するために、これらの情報をいつでも取得できるようにするアプリケーションだ。THKが提供している多数の製品群から「短納期品」が可能な在庫を検索し、価格や納期を確認してその場で注文できるほか、製品図面(3D CADデータ)や製品詳細情報も入手できる。「新規を含めた幅広いお客さまとつながるための仕組みとなります」(寺町氏)。
2つ目が「Your Catalog」。大量に存在する過去図面の管理が煩雑化し、類似仕様の製品がどんどん増えてしまう状況を解消するためのアプリケーションだ。「大量の機械設計図面を一元管理し、AI画像解析やメタデータに基づくタグ付けによって、さまざまな条件での絞り込み検索を実現し、部品共通化や設計ノウハウの共有に貢献します」(坂本氏)。
3つ目が「Orders」。見積もり取得や発注申請手続きを円滑に進めるためのアプリケーションで、システム上での見積もり依頼、見積書の取得、発注申請に必要な書類のダウンロードなどを可能とする。寺町氏は「主に既存のお得意様に対して、より緊密なコミュニケーションに基づいた顧客体験価値の再構築を目的とするものです。お客さま側の購買システムとTHKの基幹システムを連携させることで、既存の業務プロセスを変更することなく、かつてない利便性を提供していきます」と説明する。
また、顧客の購買システムとTHKの基幹システムをつなげるのに用いているパンチアウト連携機能は、THKと顧客だけでなく、THKの販売パートナーにもメリットをもたらす可能性がある。坂本氏は「既にしっかりとしたECサイト機能を構築している販売パートナーであれば、Omni THKをそのECサイトの機能拡張に利用できます。そうでない場合も、Omni THKを経由して販売パートナーにつなげることもできます」と述べる。
そして4つ目が「Forecast」。受注生産品の需要変動が大きく生産計画通りに部品入手ができない状況を解消するためのアプリケーションだ。「お客さまの生産計画と的確な発注時期を把握し、THK側から過不足のない部品供給でサポートします」(坂本氏)。
NSWをSIパートナーとしてMicrosoft Azureを最大限に活用
Omni THKの構築がスタートしたのは2018年で、先述した通りの順番でFast DeliveryからYour Catalog、Orders、Forecastへと機能を拡張してきた。この一連をサポートしてきたのが、日本システムウエア(以下、NSW)である。
坂本氏は「Fast Deliveryは一般的なECサイトの機能と比較的近い基盤であるため、IaaS型のクラウドサービスに標準的なパッケージを実装するだけで実現できます。しかし、Your Catalog以降はTHKのオリジナル機能となるためシステム構築の難易度は急激に上がります。そこでSIパートナーとしてNSWにプロジェクトに加わってもらうことにしました。NSWを選定した最大の理由は、われわれのような機械要素部品メーカーのビジネスや課題を熟知しており、なおかつIoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)といったテクノロジーに対しても高い知見と実績を有していたことです。余計な事前説明をするまでもなく、すぐに核心的なディスカッションに踏み出せることが決め手となりました」と語る。
こうしてタッグを組んだTHKとNSWの両社が、Omni THKの根幹を支えるクラウド基盤として選んだのが「Microsoft Azure」である。
NSW 執行役員常務 サービスソリューション事業本部長の竹村大助氏は、「THK様は『早期にサービスを市場に投入し、その後もサービスの拡張を常に行っていきたい』という思いを持っており、ならばスクラッチ開発部分を少なくし、PaaSをベースにクラウドネイティブのアプリケーションを作るのがベストと考えてMicrosoft Azureを提案しました。Microsoft AzureのPaaSは、それ自体の拡張性や信頼性、冗長性が考慮されています。Omni THKが大きな目標とするIoTやAIなどの最新テクノロジーの活用、Azure Active Directoryによる認証といった観点からも、Microsoft Azureは一貫性をもったPaaS連携を行いやすいというメリットがあります」と述べる。
また、Omni THKの4つの機能を運用するMicrosoft Azureをベースとするインフラは、利用者向けWebサイトを提供する「Web Apps」やデータベース機能の「SQL Database」の他、「Your Catalog」における図面の画像データの蓄積や属性・タグ情報の付加を実現するのに必要な機能など、さまざまなPaaSで構成されている。
さらに最大限に配慮したのがセキュリティだ。Omni THKでは大手製造業を中心とした多くの顧客の生産計画や図面といった機密情報を扱うことになるため、それらの情報を外部に流出させるようなことは絶対にあってはならない。「Microsoft Azureはグローバルの主要なセキュリティガイドラインや法令を満たしています。つまり、Microsoft AzureのPaaSを利用すること自体がセキュリティ対策につながるのです」(竹村氏)という。
加えて言及するのがクラウドサービスの継続性だ。竹村氏は「マイクロソフトはデータセンターを再生可能エネルギーだけで賄うという計画に取り組むなど、将来的なクラウドサービスの持続成長に向けた体制と仕組みを整えており、NSWとしても自信を持ってお薦めすることができます」と意気込む。
なお、先行して展開していた海外向けのFast Deliveryの機能のみ別のクラウドサービス上で運用されているが、今後は順次、Microsoft Azureベースのインフラに統合していく計画だ。
さらなる進化を遂げていく「Omni THK」
今後に向けてもOmni THKはさらなる進化を遂げていく。
坂本氏は「まずは海外にもしっかりサービスを展開し、お客さまのカバー率を高めていきたいと考えています。また、AIの本格活用にも乗り出していきます。既にYour_Catalogでは図面に書かれている文字をOCRで読み取り、自動的にタグ付けを行う機能などを提供していますが、引き続き図面データや生産データなどの利用面でもAIによるさらなる機能強化を図っていきます。Microsoft AzureのPaaSとして提供されている自動機械学習機能の『Auto ML』やコグニティブ(認識)系のツールを活用した、さまざまな可視化・分析アプリケーションを順次提供していく予定です」と構想を示す。
そして、もう1つの大きなテーマと位置付けられているのが、Omni THKとは別途のサービスとして提供している予兆検知アプリケーション「OMNIedge」との連携だ。OMNIedgeは、同社の主力製品であるLMガイドやボールねじの損傷や潤滑状態を独自のアルゴリズムで数値化し、IoTデータとして収集・分析することで機械や装置の状態監視や予兆検知を可能とするアプリケーションで、本格的サービス展開が始まったところだ。寺町氏は「THK全体としてデジタル技術を生かしたビジネスモデル変革を目指す中で、OMNIedgeは製造業におけるサービスビジネス化への大きな挑戦となる取り組みです」と訴える。Omni THKとOMNIedgeがシームレスに連携する基盤から、IoTやAIを活用した新たな顧客体験価値を創造し、提供していくというのがTHKの描いている基本戦略なのだ。
また、OMNIedgeがデータ収集基盤としてMicrosoft Azureを使っていることも、今後の連携に向けた大きなポイントである。将来的な「IoT Hub」や「IoT Edge」といったMicrosoft AzureのIoT関連機能の導入を見据えた検証も進めているようだ。
グローバルで圧倒的高シェアを持つTHKのLMガイドからデータを収集し、古い設備の状態を把握できるようになるインパクトは絶大だ。Omni THKとOMNIedgeの連携は、製造機械メーカーや販売代理店、エンドユーザーなどステークホルダーを巻き込んだエコシステムに発展していく可能性を秘めているのである。
関連リンク
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.
"部品" - Google ニュース
May 25, 2020 at 08:00AM
https://ift.tt/3d5FPLq
大手機械要素部品メーカーのデジタル革新が“かつてない顧客体験価値”を生む - @IT MONOist
"部品" - Google ニュース
https://ift.tt/31ISpv5
Shoes Man Tutorial
Pos News Update
Meme Update
Korean Entertainment News
Japan News Update
No comments:
Post a Comment