主力機の墜落事故に加え、新型コロナウイルス感染拡大による世界的な航空需要の縮小により、経営危機に陥っている米航空機大手ボーイング。需要の縮小が長期化すると見込み、中型と大型の旅客機の生産を減らす計画を決めた。
日本企業が主力部品を供給する中型機「787」は、現在の月産14機から2022年までに7機に半減させる予定になっており、サプライヤーの日本企業にとって深刻な打撃となりそうだ。
■エアバスも主力機「A320」減産
ボーイングは世界最大の旅客機メーカーであり、旅客機市場を欧州のエアバスと二分している。旅客機だけではなく、軍用機やミサイル、宇宙機器などの開発・製造も担っており、自動車と並んで米国の製造業における存在感が大きい企業だ。しかし、主力機「737MAX」は2度にわたる墜落事故を起こして安全性が問われ、世界中の航空会社が運行を停止している。購入のキャンセルも相次ぎ、400機近い在庫を抱えているという。
この厳しい経営環境に新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)が追い打ちをかけた。感染拡大を防ぐために世界各国が人の移動を制限しており、国際民間航空機関(ICAO)の試算によると、パンデミックが起きなかった場合と比べ、2020年の乗客は最大で15億4000万人減少し、航空会社は全体で2730億ドル(約29兆円)の減収を余儀なくされるという。既に日本航空(JAL)やANAホールディングス(HD)も含めた世界各国の航空会社は、2020年1~3月期の純損益が赤字に転落したと発表している。航空会社は多額の投資になる航空機の購入計画を縮小せざるを得なくなってくる。ボーイングに限らず、エアバスも主力機「A320」などの生産を削減すると発表している。
機体の35%を三菱重工、川崎重工、SUBARUが開発・製造
航空機の生産は自動車と同様、「裾野が広い産業」と言われ、部品やパーツの製造を多くの企業が担い、最終的にボーイングやエアバスが組み立てる産業構造だ。特にボーイングは、日本の三菱重工、川崎重工、SUBARUの3社との関係が密接で、787では主翼をはじめとする機体の35%を3社が開発・製造している。東レは787の主要構造部分に使う炭素繊維をボーイングと共同開発しており、ブリヂストンはタイヤを供給する。航空機用内装品メーカーのジャムコも機内のトイレやキッチンなどの生産を担当している。
こうした航空機産業は日本では中部地方に集中しており、日本政府は愛知県、岐阜県を中心とした地域を「アジアNo.1航空宇宙産業クラスター形成特区」と称して、特例措置も設けて支援してきた。20年3月下旬にボーイングの米国工場が生産を一時停止した際、中部地方の部品工場で生産を減らす動きがでたが、これ自体は短期的なもの。だが、今回の減産計画は日本企業への影響も中長期的に及ぶ。三菱重工は787の主要部品を製造する名古屋市の拠点を5月に一時休止する予定だが、今後は各サプライヤーが生産計画や投資計画の縮小に向けて検討を本格化していく見通しだ。
新型コロナウイルスは、震源地だった中国では収束段階に入っており、欧米でも感染拡大のピークは過ぎたとの見方が伝えられている。しかし、医療体制が不十分な途上国で感染拡大が続く中では、世界的な航空需要がコロナ前の水準まで回復するのは容易ではない。ピークを過ぎた地域でも感染流行の「第2波」「第3波」が起きる可能性も指摘されている。そもそも「ウィズ・コロナ」の世界では、テレワークの拡大といった働き方の変容も含め、「人の移動」について考え直さなければならない。
世界の航空会社や航空機メーカーにとって、前提としていた需要が蒸発しただけでなく、中長期的にも低迷するのは必至で、関連する企業も含めてかつてない厳しい経営環境が続きそうだ。
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