ヨコハマ・フットボール映画祭2021(主催:特定非営利活動法人横浜スポーツコミュニケーションズ/ヨコハマ・フットボール映画祭実行委員会)は、10月9日(土)の映画祭開幕に先駆けて、村井満Jリーグチェアマン、東京ヴェルディの小池純輝選手、アルビレックス新潟レディースU-18出身の女優栗林藍希さん、電動車椅子サッカー日本代表の永岡真理選手、ノンフィクションライター宇都宮徹壱さんによるYFFFアワード2021審査会を9月13日に実施した。
YFFFアワードは、サッカーが持つ様々な可能性と魅力を伝えてくれる作品を表彰し、広く発信するために制定。2020年からは外部有識者によって構成させる審査会議で各賞を決定している。審査の結果、女子サッカーが禁止されていた1980年初頭の西ドイツで世界一を目指した女性アスリートの奮闘を発掘した傑作ドキュメンタリー『壁を壊せ! -ドイツ女子サッカー 台北の奇跡-』がYFFFアワード2021グランプリ、ベストチーム賞、ゲストプレイヤー賞の3冠に輝いた。
審査員特別賞には、地元のサッカークラブをこよなく愛する少年の冒険を描いた『俺たちブロンリーボーイズ-ヘタレなクラブの愛し方-』が、ベストコーチ賞は、ロシアにブラインドサッカーを紹介し深い愛情でロシア代表チームを指導しながらも突然の解雇により混乱に陥るニコライ・ニコライ・ベレゴヴォイ(『VOY!-光と影の冒険-』)が選ばれた。
また、金融危機をきっかけにオーナーが二転三転しながらも市民クラブとしての再生に活路を見出したポーツマスFCにはベストクラブ賞、コロナ禍で無観客試合が続く中、クラブへの愛情を増していく城南FCサポーターにはベストサポーター賞が贈られる。
ヨコハマ・フットボール映画祭2021は、横浜市内の3会場(かなっくホール、シネマ・ジャック&ベティ、横浜セネックス)を舞台に、10月9日(土)から15日(金)の7日間にわたって、10本のサッカー映画、4つのトークイベント、9つの展示ブースが楽しめる横浜市内最大規模の映画祭。本年は10月9日(土)を「女子サッカーを旅する1日」として、サッカーを愛する女性を応援する6つのプログラムを展開する。また、映画祭当日は、来場者の投票で決定する観客賞が実施される。
【ヨコハマ・フットボール映画祭2021 開催概要】
主催:ヨコハマ・フットボール映画祭実行委員会 特定非営利活動法人横浜スポーツコミュニケーションズ
10月9日(土)、10日(日) かなっくホール、横浜セネックス
チケット:オンラインで好評発売中! *会場でのチケット販売はございませんのでご注意ください
10月11日(月)~15日(金) シネマ・ジャック&ベティ
チケット:劇場公式サイトと劇場窓口にて上映3日前より販売
YFFFアワード2021 受賞結果
グランプリ 『壁を壊せ!-ドイツ女子サッカー 台北の奇跡-』
ベストチーム賞 ベルギッシュ・グラートバッハ09
ベストプレイヤー賞 アンネ・トラバント=ハールバッハ

■受賞コメント ジョン・ダーヴィト・ザイトラー監督
「ヨコハマ・フットボール映画祭2021でのグランプリ受賞を光栄に思います。私自身が日本映画の大ファンであり、素晴らしい映画文化を持つこの国での受賞は特別な名誉です」
「審査員の皆様には、本作品をグランプリに選んでいただいただけでなく、作品の題材となったチームにベストチーム賞を、そして特別な存在である選手兼監督にベストプレイヤーを授けていただいたことに感謝します。なぜなら、この女子チームの功績は、あまりにも長い間忘れ去られ、然るべき評価を受けてこなかったからです。ちょうど今年の10月は、SSG 09 ベルギッシュ・グラートバッハの女性たちが『台北の奇跡』を起こしてから40年目の節目となります」
「この歴史的な偉業は、フットボールが私たちに与えてくれるもの、すなわち、どんな困難にも負けず自分の信念を貫くという、魔法の力を示してくれました。彼女たちの場合、信念を貫くとは、明らかな男女間の不公平と戦うことを意味していました。リスペクトと正しい評価。それがこの映画の中心的なテーマです。今回の受賞は、この作品とチームそのものの真価が正しく認められるための一助となるでしょう。心から感謝しています」
■講評
宇都宮「1980年代といえば西ドイツのサッカーが非常に強かった時代です。サッカー王国で、ヨーロッパの中でも文化的にもとても成熟していて、男女平等が当たり前な国というイメージがあったのが、まるで違っていたという驚きですよね。勇気ある女性たちの回顧であり、歴史的なトリビアもあっていろいろと勉強になりました。女子サッカーに限らず、女子スポーツの捉え方というものを、自分もまた勉強しなおさなきゃいけないな、と痛感するきっかけになった作品です。映画のドキュメンタリーとしての質の高さもさることながら、いろいろ得られるものもあって、本当に素晴らしいと思いました」
永岡「女性はサッカーをするべきではない」という社会の中で、スポンサーも更衣室やシャワー室も全部ない中でコツコツ続けて、最後に世界選手権で結果を残して、クラブチームの環境を変えていったところがすごいなと思いました。好きなことを禁止されている環境で、なおかつ、メディアや国からひどい差別を受けても、どうにかして切り開いて、自費で世界選手権に参加して優勝したということが一番強く印象に残っています。ドイツの女子サッカーを公式なものにしていったという国レベルの変化が映し出されていて、人が死に物狂いで戦う姿が印象的で、グランプリに選びました」
村井「(アンネ・トラバント=ハールバッハについて) ドイツそのものの価値観や、世界の女子サッカーを変えてしまうぐらいのインパクトのある人物の物語です。もし選手兼監督のアンネという一人の女性の心が折れていたら、現在のドイツ女子サッカーの潮流は変わっていたはずで、歴史的に見ても興味ある内容でした。この時代に存在した差別や偏見と、そうしたものと戦ってきた足跡を、丁寧に素材を集めて制作している点もよかったと思います」
審査員特別賞 『俺たちブロンリーボーイズ-ヘタレなクラブの愛し方-』

■講評
栗林「サッカーに関すること以外の感情、例えば恋心も描かれていて、映画としてすごく面白かったと思います。若い男の子や女の子が、その葛藤を抱えて冒険していって、映画の最後で何かを得るという作品がすごく好きなのですが、まさかサッカーの映画祭で自分の好みの映画があると思わなかったです。ただただ映画としてすごく楽しみました。サッカーをしてる人好きな人も楽しめるし、サッカーを知らない人も、サッカーってこういうものなんだとか、こういうチームが新しい発見にもなるかなと思ったので選びました」
小池「シンプルに面白かったですね。声出して笑っちゃったりしました。冴えないデイブの感じや、頼りない周りの大人たちがすごく楽しかったです。恋愛もあったり。サッカーへの愛が詰まっていて、観終わった時に、『やっぱサッカーって最高だな』って思えた作品でした。いろんな方に観てもらいたいなと思いました」
永岡「コーチが素人で、勝てなくて、どうしようもないチームですけど、だからこそ、主人公のデイブはブロンリーのことが大好きで。チームを良くするためにとった行動が、良くない方向に行ってしまったけど、それでもチームの存続のために動いて。サッカーを通して、家族や恋人を含めた周りの人々の大切さが映し出されていて感動しました。あとは、クラスメートは強豪チームのファンなのに、勝てなくて、運営も危うくても、ひとつのチームを応援し続ける気持ちに惹かれました。純粋に面白い映画だなって思いました」
村井「ノンリーグのいわゆる地域クラブ、街クラブが地域にどれだけ溶け込んでいるかという、いわゆるフットボール文化を、すーっと感じられる作品でした。セリフの中には、『サッカーは生死よりも大切なものだ』とか、『サッカーは人生を台無しにする』、『(クラブを)無条件で愛すると世界が変わる』といったように、一つひとつのフレーズが、本当にサッカーを愛する人の言葉になっていました。実話をアレンジしている訳ですけれども、サッカーが人を成長させもし、時に人生を狂わしてしまう様もそのまま表現されている映画でしたね」
ベストサポーター賞 城南サポーター『我が町のサッカーチーム-城南(ソンナム)FCを応援する人々の話-』

■講評
宇都宮「ある種、淡々とした作品だったんですけれども。去年、日本では、村井さんやJリーグのみなさんのおかげでなんとかシーズンをコンプリートしましたが、お隣の国はどうだったかという情報はあまりなかった。日本と韓国で、サポーターのメンタリティは実は全然違っていないっていうところも含め、サポーター目線できちんと記録されたというところでは、非常に価値のある作品だなと思っています」
ベストコーチ賞 ニコライ・ニコライ・ベレゴヴォイ『VOY!-光と影の冒険-』

■講評
村井「ニコライの人としての弱さ、例えば、監督を更迭された際に、後任の失敗を望むような、ちょっと邪悪な心が見えたりする一方で、次の監督の手柄になろうと、自分の育てたチームを心から応援する、純粋なチーム愛も顔を出します。その相克やコントラストが見事に表現されていて、人間ドラマとしてもとても面白かったですよね。また、ブラインドサッカーの物語を越えて、愛や仁を体現するニコライと義や規律を重んじる後任のエラストフ監督との対比もサッカーの指導を考える上ではとてもとても面白かったです」
栗林「『ベストコーチ賞』はニコライがいいです。作品としても、ニコライとエラフトフのふたりの監督は対照的だと思いますが、その特性が比較できるような編集の仕方をしてあったり、サッカーを知らなくても、チームが変わっていく姿や、監督の対照的なものがすごく分かりやすいなと思いました」
ベストクラブ賞 ポーツマスFC 『ポーツマスFC-破産からの再生-』

■講評
小池「オーナーチェンジが何回もあったり破産してしまったりというのが、ちょうどヴェルディも昨年トップが変わったりして、いろいろ考えさせられることもありました。そういう中でも、今、コツコツがんばってますし、また市民クラブというところで、横浜FCでもプレーさせていただいて。そういう意味でも何かいろいろ感じる部分があったので、がんばって欲しいなというのもあるし、僕自身もまたがんばりたいなと思いました」
まだまだある魅力的な上映作品
『オリンピック・リヨン-女子サッカー最強チームの真実-』

村井「何故こんなにも強いのか、何故ここまでお客様を集めるんだと思わざるを得ない程、最強のチームであるリヨン。指導者も更衣室もない所から始まり、頂点にまでに至る道程はあまりにも学ぶことが多すぎる。WEリーグの発足の今年、この映画をモチーフに岡島チェアや関係者と我々の未来も議論してみたくなりました。クラブのドキュメンタリーとしては素晴らしい作品ですね」
栗林「30歳を超えたジェシカ選手が、若手選手にチャンスを与えたいとか、自分の将来を優先してしまったらチームの将来がなくなってしまうとか、そういう言葉にすごく心が動きました。あと、『私たちは男子の選手たちと同じことをしても半分ももらえない』という話をしていて。『私たちにはリスペクトないから。リスペクトのないお金はいらないけど、女子サッカーをもっと、ふさわしい地位にするためには、たくさんの人からのリスペクトが必要』という言葉もすごく印象に残っています。彼女は、誰よりもチームのことと、女子サッカーのことを考えているなと思いました」
高校演劇「フートボールの時間」

栗林「まず面白く、完成度の高い舞台だったと思います。みなさん高校生なんですよね。お芝居が本当に上手で魅力的で。言葉と全身を使って強いメッセージを送ってくれたので、作品としてすごく楽しめました。サッカーが好きな人はもちろん、サッカーに全然興味がないっていう人も楽しめると思います」
『甲府のヴァンディエラ(2001〜2017)』

小池「同じ選手目線で言うと、石原選手がひとつのクラブで長い間活躍されて、本当に愛されてるっていうのは素晴らしいことだなと。僕自身、プロで最初のクラブの浦和レッズでレジェンドになって、みんなに愛されて、ということに憧れもありました。今はいろんなクラブでプレーさせていただいて、その土地土地で応援してくれる方や土地を知ることができて、それが僕自身の財産だなとは思ってるんですけど。引退試合もされてましたが、なかなかしてもらえないですからね。本当に甲府にとって、石原さんの存在は大きかったんだろうな。というのを想像しながら見てました」
『ディエゴ・マラドーナ 二つの顔』

小池「マラドーナが素晴らしい選手だったっていうのは分かってましたが、正直深くまで知らなかったので、この作品で知ったことが多いです。ナポリに移籍した時のマラドーナを迎えるサポーターの数がものすごくて、選手目線で言うと、本当にすごい重圧だったんじゃないかなと。そして、これだけ期待されている中で、当たり前のように結果を残していく。やっぱりマラドーナって本当にすごかったんだろうなって。いろいろ問題はあったと思うんですけど、一選手としてやっぱり素晴らしい。伝説の神の手とかいろいろありますけど、そういうのもすべて見られたので、個人的にはすごく刺激を受けたと言いますか、こういう気持ちの中でもプレーしていくっていうのは大切だなと思いました」
村井「時にサッカーは人を神様にもするし、時に犯罪者にもする。街や国の結束をものすごく高めることもあるし、街や市民やサポーターを分断させることもある。サッカーというものが持っているそのものの本質、奥行きがうまく表現されていると思いました。サッカー選手、サッカークラブそのものが単独で存在するわけではなくて、メディアやサポーター、時にマフィアなど様々な人々が関わる中で、相互の確執や葛藤なども含めて、すべてそれがサッカーなのだと気づかせてくれます。ディエゴとマラドーナ二つの人格が交錯するなかで、サッカーの深淵を思わせてくれる素晴らしい作品でした」
〜審査を終えて〜
宇都宮 「今年も非常にバランスよく、ジャーナリスティックな視点のものあり、あとは過去の出来事を再現するフィクションもあり、演劇を記録した作品は結構珍しくていいなと思ったりしました。あとは、何と言っても今年はWEリーグ開幕というところで、女子サッカーが積極的に取り上げたのが良かったと思います。
小池 「審査員をやらせていただいて本当に光栄です。サッカーの深みとか、いろんな学びがあって、選手としての幅も広がるんじゃないかなと思っています。今、30代になってから点が取れるようになってきて、年齢は関係なく成長できるんだぞ、というのを証明したいなと思っている中で、この映画祭に関わらせていただいたことで、いい影響を与えてくれてるんじゃないかなと思っています」
栗林「今回初めて参加させていただきました。サッカーに関わってらっしゃる方々の中に参加させていただくというのが、すごく嬉しかった反面、緊張していまして。だけど無事に終われてよかったなっていう気持ちです。意外とラフな感じでお話ができてすごくいい時間でした」
永岡「本当に多くの映画がある中で、いろいろなストーリーがあって、その中で自分の生活とも重ね合わせていたり、考えさせられることがいっぱいありました。こういう国があるんだとか、昔はこういう状況だったんだとか、勉強になることもたくさんあったので、こういう場に参加させていただけたことに、感謝の気持ちでいっぱいです。もし、また機会があったら参加させていただきたいな、なんて思っています」
村井「日常いろいろ忙殺される中で、自分の時間を取り戻す感があって、実はこの審査はとても楽しみにしていております。フットボール映画といっても、実に様々なジャンルがあります。資金をかけた本格的な映画もあれば、いわゆる自主映画のようなものもあります。この審査も、ある意味異種格闘技、体重制限のない柔道の試合みたいな感もあります(笑)。それだけ幅が広いし、奥行きがあるし、この映画祭らしくて楽しいんですけれども、順番をつけるとなると難しいなあというのが正直なところでした。ヨコハマ・フットボール映画祭の後に、サッカーについて考えたくなるような映画、皆でちょっと飲みに行って、余韻を語り合いたくなるような映画を選ぼうと思いました」
からの記事と詳細 ( YFFFアワード2021、『壁を壊せ! -ドイツ女子サッカー 台北の奇跡-』がグランプリなど3冠に輝く - SOCCER KING )
https://ift.tt/3Aeea5M
No comments:
Post a Comment